「分かりやすい」数学ではなく「分かる」数学を通じて、
ともに考え、ともに悩み、ともに喜ぶ。
自ら考え、発見する感動を繰り返し、
「明解」を探究するスピリットを培う。

東京大学大学院数理科学研究科
数理科学専攻博士課程単位取得退学


元・中学校・高等学校数学科教諭による「大人のための趣味数学」

算数・数学とは、問題を解くもの?

算数や数学は、「問題を解くもの」だと思っていませんか?

私は、世間の多くの人が、「数学は、解くもの」と思っておられることに、違和感を覚えています。

私は、数学は「考えるもの」と認識しています。そのことを、以下に少しずつ書いて参りたいと思います。

(なお、「算数」という語についてですが、数学の国際語である英語では、日本でいう小学1年生から「数学(mathematics)」と言います。日本では、最初の6年間に習うものを「算数」と呼びます。以下「数学」という語で統一して書きます。)

大学院で数学の研究をしていたころ学んだことは、論文というものは「まだ誰も書いたことのないこと」かつ「価値のあること」を書くものだということでした。これを、音楽でいうところの「作曲」になぞらえて説明いたします。作曲は、まだ誰も書いたことのない音楽を書かねばなりません。誰かが書いたことのある曲を書いても、それは「ぱくり」ということになってしまいます。かといって、ピアノをでたらめに弾き「これはいままで誰も書いたことがない」と言っても意味がありません。作曲というのは、「まだ誰も書いたことのない曲」で、かつ「いい曲」を書かねば意味がないのです。数学というのも、そういうものであると考えていただいて結構だと思います。数学とは文学のようなものであり、論文とは思想を書くようなものなのです。

ご一緒に数学を考えて参りたいと思います。以下に「小学生」「中学生」「高校生」「大人」で当教室における例を挙げたいと思います。(以下の生徒さんにはエピソード使用許可を得ています。)

小学生の生徒さんの例

ある小学校低学年の生徒さんです。九九が苦手であるとのことでした。ご一緒に小学2年生の教科書を読みました。教科書には遊園地の絵がかいてありました。どうやら、5人乗りのジェットコースターが、3台で、15人乗れる、というふうにかけ算を導入していくもののようでした。

しかし、私は、教科書はあくまで「遊園地の話をしている」と認識しました。「遊園地の話をとっかかりにしながら、かけ算の話に持って行く」というのは、学問として本末転倒であるように感じたため、その生徒さんとは、何週間にもわたって、遊園地の話をし続けました。ここで「先生、遊園地の話はそのへんにして、そろそろかけ算の話を・・・」とおっしゃるような親御さんでなかったことはほんとうにありがたいことでした。

その生徒さんとは、ひたすら遊園地の話をしました。お寿司の話にもなりました。サーモンは1皿に2貫、乗っているそうです。しかし、私はあくまでお寿司の話をご一緒にいたしました。イクラのお寿司の1貫にどれほどのイクラの粒が使われているのか、また、にぎり寿司の1貫にどれほどの米粒が使われているのか、という話題は、お互いに想像を絶していて答えられないものでした。

やがて、教科書で、「身近なかけ算の例」を挙げるところが来ました。ところが、その生徒さんは、身近なかけ算の例を挙げることができないのでした。私が「1日に食事は何回しますか」とおたずねしますと「3回です」とお答えになります。「では、1週間に食事は何回しますか」とおたずねしますと「21回です」とお答えになります。三七21、という九九の計算はおできになるのです。

それでも、かけ算の例は出せませんでした。私が、片手で指は5本、両手で指は10本、などとかけ算の例を出しておりましても、その生徒さんは、どうしてもかけ算の例が出せないのでした。この生徒さんが、九九が苦手である、という本質に迫りつつあるのを感じました。

翌週、この生徒さんは、かけ算の例を思いつかれました。学校の先生がおっしゃっていた例らしいのですが、ハンバーガーをひとり4個ずつ3人に配ると、ハンバーガーは12個、必要になるそうです。確かにこれはかけ算の例になっています!しかし、ハンバーガー4個というのは、いかにも多いわけです。その生徒さんも、どれほどおなかが減っていても、ひとりでハンバーガー4つは食べられないとおっしゃいます。そこで、お互いに、1回の食事で4つ食べるとちょうどよい食べ物を考えました。かっぱ巻き4個は少なすぎるそうです。からあげ4個は多すぎるそうです。結局、ごはんにぎょうざを5個ほど食べるとだいたいちょうどよいという結論に達しました。

この生徒さんとは、そののち、三角形や四角形などについてもご一緒に考えました。いまも信頼関係にあります。ありがたい生徒さんです。

中学生の生徒さんの例

ある中学生の生徒さんです。1年ほど前、円の直径の長さと円周の長さは比例しますとおっしゃっていました。また、円の直径の長さと面積は比例しますとおっしゃっていました。これは、前者は比例しますが、後者は比例しません。計算していただきましたが、ぴんと来ておられないご様子でした。

このときは、これで終わっていますが、これから1年以上が経過し、再び比例の話題になったとき、私が気づいたことがあります。この生徒さんは、「増えたら増える」ものを「比例する」とおっしゃっておられるらしいことです。確かに、円の直径が大きくなっていったら、円周も長くなっていき、面積も増えて行きますね・・・。

この生徒さんに、比例の例を考えていただくために「倍にしたら倍になるもの」を考えていただきました。そのころは6月でしたが、この生徒さんは、「夏休みが倍になったら、嬉しさが倍」という、非常に夢のある例を出されました。しかし、私が「2倍にしたら2倍になるものが比例なので、たとえば、夏休みが倍になったとき、嬉しさが3倍になっていたらそれは比例ではないですよ」と申し上げますと、なにが比例でなにが比例でないか、認識なさったようでした。

それ以来、この生徒さんに、2つの量が比例しているかどうかおたずねしますと、この生徒さんは表をかかれ、2倍にしたら2倍になっているか、3倍にしたら3倍になっているか確認し、「比例しています」「比例していません」とお答えになるようになり、間違われることがなくなりました。いまはもっぱら反比例の勉強をしています。1年以上の年月をかけ、お互いに弱点に気づいて行った例でした。

高校生の生徒さんの例

高校生については短く触れるのみとしたいと思います。ある、中学生のときに入門なさった高校生の生徒さんは、円の方程式(${x^2+y^2=1}$)を習う前から自分で発見なさいました。私も、私自身を除いて、円の方程式を習う前に自分で発見する人ははじめて見ました(私もずいぶん「かしこい」と言われる大学、大学院にいたものですが、円の方程式を習う前から発見していた人に出会ったことはありません)。このような生徒さんもおられます。

(上の図は、同じ生徒さんが授業中に発見してかかれた、正四面体16個で囲まれている4次元の図形の概形です。)

高校生ともなりますと、どうしても大学受験が視野に入って参ります。私は数学とは「解くもの」とは認識していないことを先に述べました。「問題を解く数学」の最たるものである受験数学は、最も苦手なものです。しかるべきときが来ましたら、ちゃんと受験指導ができる先生にバトンタッチをしたいと思います。それで、高校生の項目は短めです。

大人の生徒さんの例

ある大人の生徒さんは、まず高校数学から始めましたが、この生徒さんがとても賢いことに気づいた私は、同時にこの生徒さんが数学的な訓練は足りていないことにも気づき、小学校の算数に戻ることを提案いたしました。

以来、この生徒さんとは、小学4年生の教科書に基づき、ご一緒に数学を考えています。小学4年生で「面積」を習います。この生徒さんは「面積ってめっちゃ難しいですね!」という感想をもらされました。確かに、面積とは、「広さの数値化」のことです。「広さ」という広がりのあるものを、実数という(正確には0以上の実数)、数直線というまっすぐな線で表されるもので表すのです。面積という発想は、かなり思考の飛躍を伴うのでした。この生徒さんは、面積という概念そのものと向き合われたのでした。

もうおひとり、大人の生徒さんをご紹介いたします。最初は小学校の算数からはじまりましたが、やがて「ざっくりわかるトポロジー」(名倉真紀、今野紀雄 著)という一般人向けの新書に基づき、トポロジーをざっくりご説明する授業になりました。私の大学院時代の専門は位相幾何(トポロジー)であり、厳密さを損なわないで、直観的なご説明をすることは可能なのでした。さまざまな工夫を凝らし、この生徒さんは、1年半以上の年月をかけて、この「ざっくりわかるトポロジー」を読了されました。最後はポアンカレ予想の証明まで行きました。レアなケースですが、こういう大人の生徒さんもおられます。

私にとって算数・数学とは「解くもの」ではなく「考えるもの」

このように、私にとって算数・数学とは「解くもの」ではなく「考えるもの」です。

微分の逆の操作(積分)をすると、なぜ面積や体積が求まるのか。関数とはなにか。サイン、コサイン、タンジェントとはなにか。分数どうしのかけ算は、なぜ分母どうし、分子どうしをかけて、それぞれ分母、分子とする分数とするとうまくいくのか。そもそも分数とはなにか。ご一緒に考えましょう。歓迎いたします!

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東京大学理学部数学科卒、東京大学大学院数理科学研究科数理科学専攻博士課程単位取得退学

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