「数学とは何か」を認識しつつあるごく普通の中学生の生徒さん

また、当教室での授業の様子を公開させていただきますね。公開に当たり、ご本人様および親御さんの許可は得ております。

中学生の生徒さんです。半年ほど前、小学5年生で習う「倍数と約数」がよくわかっていないことが判明し、教科書を戻りました。どこまで戻ったかと言いますと、小学3年生が、はじめて「わり算」を習うところまで戻ったのです。(倍数や約数の理解には「割り切れる」という概念の根本に戻る必要があったのです。)しかし、それをご本人も親御さんも嫌がられませんでした。それで、きちんと「わり算とはなにか」まで戻って考え直しました。その生徒さんもがんばりましたし、私もご一緒になって考えました。

それで、わり算がだいぶ明らかになって、改めて小学5年生で習う「倍数と約数」まで戻ったのでした。驚くべきことに、その生徒さんは、倍数、約数という概念について、かなり、「解像度を上げて」おられました。それは私には伝わりました。少なくともこの生徒さんは、小学5年生の教科書の要求する水準には充分に到達しておられました。これくらい「整数」について根本的な認識に到達していると、たとえば高校2年生になって「数列」を習うころには、だいぶ見通しがよくなっているかもしれません。

さて、この生徒さんは、これで半年くらいかかった長い「わり算まで戻っての倍数、約数の勉強」に区切りをつけ、ご本人の希望で「関数」の学びをスタートさせました。中学1年生のテキストに沿って、関数をはじめて習うところ(「比例と反比例」)から学び始めました。第1回は、私としては、中学のテキストは、小学校ではっきり比例と反比例を習って理解したことを前提に教科書が書かれてあるので、難しい可能性がある、とも思っていました。しかし、この生徒さんは、わからなかったら学年を戻っていくことに抵抗がありません。そこは「わからなかったらいつでも小学校の算数に戻りましょうね」ということで学びがスタートしたわけです。

先日、「関数」の第2回がありました。教科書では、25メートルプールに水を入れる例があがっていました。私はプールに水をはる作業をやったことがありません。その生徒さんもありませんでした。おそらく、およそほとんどの中学生のやったことのない作業でしょう。(だれの仕事なのでしょうね。体育の先生か、それとも・・・?)それでともかく、${1}$時間で${8}$センチ、水位が上がる設定でした。お互いにやったことがない作業なので、実感はわきませんが、とにかく${x}$時間で${y}$cm、水位が上がるとき、「${y}$は${x}$の関数であるといえますか」という問いが教科書に載っていました。私がその問いを問うと、その生徒さんは「いえます」とおっしゃり、なんと驚いたことに、教科書に載っている関数の定義に基づき、明解にそれが関数であることをおっしゃったのでした。正直、驚きました。これはすごいことです!この生徒さんは、はっきり関数というものを認識しておられる!

続いて、${x}$と${y}$はどのような関係にあるか、という問いが教科書に載っています。これは、結論からいうと「${y}$は${x}$に比例している」ということなのですが、比例については小学校の算数で習っているという前提で中学校の教科書は書いてあります。われわれは、はじめて比例の出てくる小学5年生の教科書を開きました。比例の根本に戻りました。そこから${y}$は${x}$に比例していることを言おうとしました。言えました。${x}$は${y}$に比例していると言えるか、という話もいたしました。これは私は「${y}$は${x}$のことが好きです」というのと「${x}$は${y}$のことが好きです」というのはまったく異なるというふうに申し上げました。通じたようです。

この生徒さんは「数学とは何か」ということを理解し始めたのだ、と私は感じました。この生徒さんのご入門から間もなく1年半です。はじめは、正直に申し上げて、箸にも棒にもかからない感じの生徒さんでした。いわゆる「ごく普通の中学生」さんであったのです(私には中高の数学の教員の経験があり、これが標準的な中学生の水準であることはだいたい知っていました)。たとえば、いまなら出せる不名誉かもしれない例で、半年くらい前までこの生徒さんは、円周率の勉強で、「円周と直径は比例しています」と言っていました。比例の定義には戻らず、おそらくなんとなくのカンでおっしゃっていました。そして私がその理由をたずねると「円周と直径は比例しているからです」とお答えになっていました。これですと、私の感覚では「円周と直径は比例しているから円周と直径は比例しているのです」というふうに聞こえ、論理として意味をなしていないのでした。この半年で、なんという長足の進歩でしょう!

この生徒さんは、当教室の誇る、典型的な「ビフォー・アフター」の生徒さんでもあります。確かにこの生徒さんは「数学とは何か」という認識に到達しかかっています。こういうのを本当のリベラルアーツというのでしょう。テストの点に結び付くというよりも、物事の根本的な理解に差し掛かっています。

この生徒さんのお父さんはとても立派なかたであるとわかって参りました。お子さんを、たっぷりの愛情で育てておられます。この日はお父さんがご不在でしたので、最後にお母さんに代わっていただきました。お母さんも立派なかたで、お子さんにたくさんの愛情を注いで育てておられるように見えます。私はこの日の振り返りで、お母さんにお子さんをほめました。お母さんは「やったじゃん」と言っていました。ご本人はうれしそうです。

最後、ご本人の全力の笑顔での「ばいばーい!」でZoomが終わりました。すてきな親子です。

というわけで、ごく普通の中学生の生徒さんが、「数学とは何か」ということを認識しつつある過程のお話を書きました。ますます楽しみな生徒さんです。引き続きご一緒に数学を考えて参りたいと願っています。

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