「熱中数学少年」

また、当教室の授業の様子のご紹介をいたしますね。掲載に当たり、ご本人様および親御さんの許可は得ております。

最初のお問い合わせは、今年の初夏だったと思います。親御さんからの連絡でした。小学2年生のお子さんが、数学に興味があると。ネイピア数とか、三角数とかおっしゃっていると。私は思いました。ネイピア数と三角数ではあまりに飛び過ぎている。失礼を承知で正直に書きますね。「どれだけの自称天才少年さんであろうか、どれほどの親ばかさんであることか」と思いながら、最初の「はじめましての会」に臨んだのです。ところが、実際にはだいぶ違いました。

その親御さんは、予想に反してかなり賢いかたなのでした。お子さんにやりたいことをやらせようとなさっておられる。また、そのお子さんも、どういうタイプだか、次第にわかりました。天才数学少年というよりは「熱中数学少年」であられるのです。

だいぶ前に、「さんまのスーパーからくりテレビ」という明石家さんまさんのバラエティ番組で、「熱中少年物語」というコーナーを見たことがあるのです。バンドに熱中する少年少女の皆さん、あるいは農業に熱中するお子さんなど、いろいろ出て来ました。たいがいは、未就学児から小学校低学年のお子さんでした。

この生徒さんは、そんなうちの仲間に入ると思われる「熱中数学少年」であられたのでした。おもにテレビの数学の番組を見て、いろいろな話題に興味を持っておられるご様子でした。

この生徒さんは、私のところに入門なさる前に、「素数を出力するプログラム」を書くことにチャレンジし、挫折した経験がおありでした。親御さんがおっしゃるには、素数の出現する不規則性にご興味がおありとのことでした。私と一緒に、「入力する数未満の素数を小さい順にすべて出力するプログラム」を書くことになりました。試行錯誤のすえ、この生徒さんは、書けました。実は、私は2016年に、以下のような経験をしていました。

2016年ですから今から7年前です。私はダメ教員として、教員としての最後の年を送っていました。もう授業も持たされず、高校2年生の情報科の実習助手などをやらされていました。3学期はプログラミングの授業でした。私は実習助手をするかたわら、「4以上の偶数は2つの素数の和で書けることを、小さい偶数の順に調べ、反例があったら止まる」プログラムを書きました(これはゴールドバッハ予想と言われる未解決問題の反例を調べるプログラムになっています)。しかし、当時の高校2年生のクラスで、これが書ける生徒さんはいなかったのみならず、かろうじて「入力された数未満の素数をすべて出力するプログラム」が書けた生徒さんは、どうやらのちに京都大学に現役合格したらしいです。

「そんなプログラムが小学2年生で書けるなんて、すごーい!」というところですが、私はこの生徒さんの実力には懐疑的でした。たとえばこの生徒さんに「11は素数ですか」とおたずねすると、答えられなかったりするのです。割り算は小学3年生で習います。やっぱりこの生徒さんは、小学2年生並みの実力なのではないか。そのプログラムはカンでなんとなく書いたのではないか。(先述の京大合格さんは「ちゃんとわかって」書いていました。)

それから、ご一緒に指数法則について学んだことがあります。高校の「数学Ⅱ」の教科書にそって、まずは${m,n}$が正の整数であるとき、${a^ma^n=a^{m+n}}$や、${(a^m)^n=a^{mn}}$になることなどを認めるところからです。ところがこれもなかなか覚束ないわけです。ご一緒に考えましたが、どうやら「${2+3=5}$か?」とか「${2\times 3=6}$か?」とかいうところで戸惑っていると考えられ、やはり小学校低学年の実力なのではないかと思わされるのでした。

しかし、以下のようなこともありました。この生徒さんは「${2\times 3=3\times 2}$」になることは言えるのでした。かけ算の交換法則が成り立つ理由がきちんと言えるのです。いや、「きちんと」というよりは、「ご自身の納得のいくように」説明なさったのでした。これはむしろ多くの小学校の先生は「バツ」にしそうですが、私には、ご本人が納得しておられるのがよくわかりました。

このように、たとえばさんまさんの番組の「熱中バンド少年」さんが、(無謀にも)作曲にチャレンジし、つたないなりにも「キラメキ」のある作品を作るように、この生徒さんは、こうしてときどき「キラメキ」をお見せになるのでした。

いま、この記事を書くにあたって、「熱中少年物語」でネット検索したところ、熱中バンド少年のうち、プロの音楽家になっている人がいるらしいことがわかりました。人の才能はどこで花開くかわかりません。このお子さんの才能を開花させようとなさるこの親御さんのありがたさを思います。この生徒さんとこれからもつながり続けたいと思っています。

(※いわゆる「ギフテッド」のお子さんも歓迎いたしますよ!)

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