当教室での授業の様子を公開したいと思います。久しぶりに大人の生徒さんのご紹介です。半年以上前にご入門になった生徒さんです。(掲載に当たりご本人様の許可は得ております。)
最初のご希望は「高校時代、文系であったので、(理系の高校生が学ぶ)数学Ⅲ、数学Cなどを学んでみたい」とのことでした。少しお話をし、小学4年生の算数から学び始めました。角の大きさ、折れ線グラフ、割り算の筆算、と学んで参りました。しかし、その生徒さんは、だいたいわかると、とくに自分の手で計算しなくても先に進まれるのでした。それはそれでアリです。星くず算数・数学教室は、数学的に厳密だから、ギッチリ厳密に学ばないとダメ、ということはありません。こういう生徒さんもおられるのです。
この調子で、4回ほど、小学4年生の算数をやったのち、私は「方向性を考える会」を提案しました。当教室では、最初の「はじめましての会」が無料のみならず、途中で「方向性を考える会」も無料相談です。「ちょっと方向性が違うな」と思ったら、お互いにどちらかのタイミングで、方向性を考えることになる生徒さんは、ときどきおられます。
そして、いきなり高校数学は難しいという判断となり、中学2年生の数学を学ぶことになりました。これも、その生徒さんは、連立1次方程式の解は、${xy}$平面上で、2直線の交点になるということを、感動をもって受け止めてくださいましたが、これも実際にご自身の手で計算なさるということはないのでした。ある意味で非常に賢い生徒さんなのです。
そして、半年くらい前に、「ざっくりわかるトポロジー」という、1,000円くらいの新書の目次を画面ごしに読まれました。私の大学院での専門はトポロジー(位相幾何学)です。その本の目次に書いてあるようなことは、すべて大学と大学院で、それこそギッチリと、何年も修行して学んで参りました。「それはすべて数学的な厳密さを損なわないでご紹介できますよ」と申し上げますと、その生徒さんは、隔週で、中学数学と、その「ざっくりわかるトポロジー」の解説の交互の勉強を希望なさいました。以降、「ざっくりわかるトポロジー」の解説がメインとなり、この半年は「ざっくりわかるトポロジー」の直観的な解説です。
位相不変量の話、位相不変量の一種であるオイラー数(オイラー標数)の話、写像の話、同相写像の話、イソトピーの話、多様体の話、2次元の閉多様体は向き付け可能ならば種数で分類される話、群の話、曲面の写像類群はデーン・ツイストで生成される話…。
どれも、きちんとした証明を述べることは困難です。しかし、そのかたは、直観でだいたい理解できるかたであり、かつ、それで楽しめるかたであり、そして私は証明まで含めてギッチリ学生時代に学んだ人間です。そういう関係性で、そのかたとの授業は成立しています。こういう生徒さんもおられるのです。
最近、ポアンカレ予想の話もいたしました。2007年ごろ、NHKが番組(NHKスペシャル)を作り、有名になりましたので、聞いたことのあるかたも多いのではないかと思います。私はまさに低次元トポロジーが専門であり、私が院生だったのは1999年から2006年頭までで、3次元ポアンカレ予想の解決はだいたい2003年であり、改めて自分は歴史の曲がり角に立ち会っていたのだという感慨があります。私は、ポアンカレ予想の肯定的解決の「日本初紹介」のセミナーを聴いています(2004年頭の、当時、日本における3次元多様体論の第一人者であった東工大の小島定吉先生の東大における90分の講演)。もちろん、私がポアンカレ予想の証明のすみずみまでご紹介できるわけではありません。しかし、たとえば「単連結な3次元閉多様体は3次元球面だけだろう」という問いの持つ重みについて、とくに、ちょっと考えただけでも、3次元球面と位相同型でない3次元閉多様体は、基本群が自明でない、となるという3次元多様体の例を挙げ、「なるほど、確かに3次元ポアンカレ予想は成り立ちそうだが、それを証明するのはいかにも難しそうだなあ」と(直観的に)思っていただくことはできました。
引き続き、その生徒さんとは「ざっくりわかるトポロジー」という新書に従って授業を進める予定です。半年くらいかけて、半分くらい読み進めました(多くの人は新書1冊を半年もかけて読まないだろうと思います。それくらいちゃんと読んでいます。著者も想定していないほどきちんと読んでいます)。つぎの授業の話題は「4次元にいくと結び目はほどける理由」です。結び目という現象は、3次元に特有な現象なのです。楽しみです。
というわけで、「星くず算数・数学教室さんは、厳密に学ばないといけないのでしょう」というわけでもない例を出させていただきました。「楽しく大学院数学のレクチャーを受ける」という授業の受け方もアリだという例として、この生徒さんの授業を紹介させていただきました。ありがたい生徒さんです。私も、トポロジー以外の専門でコレができるかと言いますと、できないと思うのですが(笑)、どうぞこういう授業をお望みのかたも、躊躇なくご入門くださいませ。