ここ一番に強い人

「スラムダンク」というマンガは、私が高校生であった30年前にジャンプに連載されていました。当時はまともに読んでいませんでしたが、いまになって、単行本で読んでいます。桜木花道って、ここ一番に強いですね。私はバスケのことはよくわかりませんが、海南大附属高校との試合のラスト1分くらいの「ここ一番」というところで見事なシュートを決めています。これは、大船に乗ったような、大らかな人の特徴ではないかと思い始めました。
学生時代の友人にもいたものです。ある打楽器の友人は、練習よりも本番のほうがうまくいくようでした。ある本番のあとで「今日は練習並みで、大した出来ではなかった」と言っていました。彼は、たくさんのお客さんが聴いている本番でこそ本領を発揮するタイプだったのです。
同じタイプで、東大オケの卒業演奏会という、後輩が初見で演奏するオケをバックに卒業生が協奏曲を演奏する内輪の出し物で、1998年3月26日に、ロドリーゴのアランホエス協奏曲をギターで弾いた谷辺昌央くんは、すばらしい演奏のあと、私に話しかけて来て、「やっぱり人が聴いていると張り合いがあっていいね」と言っていました。そこは東大オケの練習場でしたが、たくさんの後輩が聴いていて、喝采していたのです。彼はプロのギター奏者になりました。現在も活躍中です。
一方で、私はその点、たくさんの人が聴いているほど萎縮して、アガってしまうタイプでした。たとえば、院生になって1年目の、1999年12月23日。当時は天皇誕生日であり、多くの教会で、この日に子どもクリスマス会が行われていました。平成のよくある風景でした。そこで私はフルートを披露することになっていました。前にYouTubeに動画をアップした、生涯で最もよく吹けた発表会がこの年の8月22日であり、自分で言うとなんですが、非常にうまかったころの話になります。当日の最終練習で私の演奏を聴いた当時のその教会の教会学校のリーダーのお兄さんは、(私がしろうとばなれしてうまいので)非常に驚いたようでした。「え?マジで?」と言っていました。このお兄さんが司会でした。そのせいで、私はかなりハードルを上げられてしまったのです。まず礼拝の前奏として「さやかに星はきらめき」を急に演奏することになり、初見で吹きました(当時、私はこの有名なクリスマスの歌を知りませんでした)。礼拝後、昼食があり、さまざまな子どもさん向けの出し物があったのち、私のフルートの出番となりました。キーボードの友人の伴奏で、グリーンスリーヴズを吹き(この曲は教会では、クリスマスから年末年始にかけての賛美歌の位置づけなのでした。当時、教会に通い始めの私はそんなことも知らず)、それから、ペッテション=ベリエルの「フレースエーの花々」から「フレースエーの教会にて」を吹きました。これは私が1995年、大学2年の夏にレッスンの先生から習ったスウェーデンの秘曲です。そして、ピッコロで「ジングルベル」を吹きました。完全にアガってしまいました。ひどい出来だったと思います。これは、私がどろぶねに乗っているからだと、いまにして思えばわかります。「失敗したらどうしよう」という、「自分はダメな人間なのだ」という強烈な刷り込みが、私をして失敗させるのです。そもそも東大オケでようやくソロが吹ける大学3年(1996年)で統合失調症の最初の発症をしたのも、また、2001年、博士課程で取り返しのつかないような大病を患ったのも、もとはといえば、すべてこの「自分はダメだ」という強烈な刷り込みから来る「どろぶねから落ちた」という現象なのです。2001年は、研究の大海原にどろぶねで出帆してしまいました。それは沈むでしょう。とにかく、その1999年のクリスマスは、ひどい出来でした。ショックでしばらく日記を書くのをためこんでいます。数学的には非常に充実した成果を上げている時期の出来事ですが・・・。とにかく、「スラムダンク」を読んでいて、桜木花道が「ここ一番に強い」ということに気づかされたのでした。これは大船に乗った人の特徴で、プロの演奏家に多いタイプだと思います。
その日はそのあと、プレゼント交換などしたあと、後片付けをして打ち上げに行き、なんと、そのあと、なかのZEROホールに行き、東大法学部緑会合唱団を聴いています。友人の妹さんが合唱で参加していたのでした。ベートーヴェンのミサ曲ハ長調などを聴いています。先日、緑会合唱団の記事を書き、これが緑会合唱団のすべての思い出です、と書いてしまいましたが、ごめんなさい、翌年も聴いていました。
いまの私も、自営業の大海原にどろぶねで出帆していますが、これは日記からすると、25歳以来の大沈没をしておかしくないところです。それにも関わらずどうにかやれているのは、家族に話を聞いてもらえているからだ、といまは言語化しています。どろぶねから降りるのは無理でも、沈まないでやっていけたら、と思っています。本日は以上です!