そうでないとしたらおかしいでしょ

最近、あまり英会話スクールの宣伝をテレビで見ない気がしますが、英会話スクールの宣伝を見ながら思っていたことがあります。コマーシャル中に英語を決して出さないのですね。それにならうと、算数・数学教室のブログで、「数学バリバリ!」の記事を書くことが果たしてよいことなのかどうか、迷いがありました。しかし、今回は思い切って、「もろ数学」の記事を書いてしまおうと思います。

私が大学院博士課程で落ちこぼれ、30歳で中高の数学の教員になって、ある日、教務部長(数学の教員)から問われた数学の問題があります。どうやら大学入試の過去問のようでした。私はその学校唯一の「東大出」として、試されたのでした。もっともその教務部長も解けなかった問題であるようでしたけれども。とても印象に残っている問題でしたので、以下にご紹介いたします。どの大学の過去問だかわからないところが申し訳ございません。勝手に引用させていただきますね。

nを2以上の自然数とする。空間内にn個の点がある。そのn個の点は、どの3点も1直線上にない。そして、それらのn個の点は、どの2点も線分で結ばれている。そして、その線分にはすべて矢印がつけられている。このとき、どのように矢印をつけたとしても、ある点が存在して、その点からは、他の(n-1)個のあらゆる点に向かって、矢印に沿って、1手または2手で行けることを証明せよ。

あまりじょうずな言いかたではないかもしれず、すみません。サムネの絵で言いますと、これは4個の点があり、あらゆる2点は線分で結ばれており、それらに矢印がついています。左下の点からは、残り3点に、1手または2手で行けるかと言いますと、行けません。しかし、左上の点からは、残り3点に、1手または2手で行けます。このような点が必ず存在することを示せ、と言っています。問題の言っている意味は通じますかね…。

私はしばらく考え、背理法を使って証明しました。背理法とは、結論を否定して、矛盾を導く証明の方法です。大学院でいろいろな数学の論文を読んでおりましたが、ひんぱんに使う証明の方法です。「そうでないとしたら(結論の否定)、おかしいでしょ(矛盾)」という論法なのですが、この記事は、お読みのかたは背理法をご存知であるとして先に進みます。「星くず教室のブログ」としては異例の記事です。申し訳ございません。

そういう点が存在しないと仮定します。そうしますと、あらゆる点に対して、ある点が存在して、その点へは、1手でも2手でも行けない、ということになります。(この、「結論の否定」が大変でした。この問題、論理の問題なのです。ここは頭を使うところだと思います。)ということは、適当に点Aを選びますと、点Aに対して点Bが存在して、AからBへは1手でも2手でも行けないことになります。1手で行けませんから、AからBに向かって矢印はついていません。ということは、BからAに向かって矢印がついていることになります。ここで、Bに対してもある点Cが存在して、BからCへは1手でも2手でも行けないことになります。Cと書きましたが、これがAではないことは明らかです。BからAへは1手で行けるからです。したがって、AでもBでもない点Cが存在します。そして、BからCへ1手で行けませんから、BからCへ矢印は向いておらず、CからBへと矢印がついていることになります。さらに、BからCへ2手でも行けません。BからAへは1手で行けてしまいますので、AからCへあと1手で行けてはいけないことになります。つまり、AからCへと矢印はついておらず、CからAに向かって矢印がついていることになります。こうして、Cから、Bに向かっても矢印が出ており、Aに向かっても矢印が出ていることになります。

この議論を続けます。Cに対してある点Dが存在して、Cから1手でも2手でもDに行けないわけです。Dはここまで出て来た点ではありません。CからDへ1手で行けませんから、DからCへと矢印が出ています。さらにCからDへ2手でも行けませんので、BからもAからもDへは行けません。つまり、DからB、DからAに矢印が出ています。そうしますと、DからCに向かってもBに向かってもAに向かっても矢印が出ていることになります。同様にして、Eからは既存の4点へと矢印が出ており、Fからは既存の5点へと矢印が出ています。これで、最後の点であるXまで議論しますと、点Xから、他の(n-1)個のすべての点に向かって矢印が出ており、あらゆる他の点へ1手で行けてしまって矛盾です。これで証明おしまいです。

なかなかハードですよね?この問題を考えた先生は偉いなあ。どの分野の問題なのでしょうね。私は教員失格のダメ教員で、大学入試の過去問を解くという「教師のたしなみ」のできない情けないタイプでしたが、こういう「いい問題」に出会えたこともあったことを思い出しまして、ブログ記事として書いてみました。本日は以上です!

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