私がクラシック音楽マニアであることは、当教室のブログを続けてお読みの皆さまはご存じであると思いますが、私が露骨に音楽オタク話をブログで書くのは初めてではないかと思います。封印していたのですね。でも、ちょっとだけ書こうと思います。長くなったらごめんなさい。
イベールの「2つの間奏曲」という、フルート、ヴァイオリン、ハープで演奏する曲があります。しばしばハープのパートはピアノで演奏されます。短い2曲からなり、トータルで8分弱の曲です。大好きな曲なのですが、出会った最初からこんなに好きだったわけではありません。出会いは西田直孝さんのCDの購入です。25歳の大病をするより前、教会の子供のクリスマス会でフルートを披露することになり、そのときに「グリーンスリーヴス」を演奏することになり、グリーンスリーヴスをフルートで演奏しているCDを買い求めたのでした。このCDに収録されていたのです。西田さんは私のある仲間のフルートの先生でした。また、私の先生は西田さんを大変に尊敬していました。非常にうまいというのです。それもあって西田さんの演奏が聴きたかったのでした。当時は生演奏でない限りはCDを買うしか音楽を聴く手段がなかった時代です。そのときにこのイベールの「2つの間奏曲」には出会っていますが、ほとんど印象に残りませんでした。
つぎの出会いがおそらくハープの松岡みやびさんのリサイタルでした。松岡さんは教会および大学院の仲間でした(みやびさんは東大院に在籍なさっていた時期があります)。チラシを見ると、フルートの神田寛明さんがゲスト出演するのでした。神田さんがうまいことも私は先生から聞いていました。教会の牧師にタダ券をもらって聴きに行きました。このときもほとんど印象に残っていません。
そして、決定的だったのが、それからまた長い歳月の経過した、2016年の春のことでした。私の先生が、私のいま住む土地に来て、演奏したのです。久しぶりの再会でした。いろいろなことがありましたが、そのとき、先生はこのイベールの「2つの間奏曲」を演奏しました。これが非常に印象に残ったわけです。なんていい曲だろうと思いました。そして、上述の西田さんのCDを持っていることを思い出したのです。久しぶりに出して来たそのCDで、私はまた感動しました。これは本当にいい曲だ!
ここからが本題です。2019年のクリスマス、いま考えるとコロナ前の最後のクリスマスですが、そのときの教会で、仲間と出し物をすることになったのです。ヴァイオリンとピアノの人とでした。私はこの曲を提案しました。私は自分から選曲することは珍しいほうなのですが、このときはやりたい曲を選びました。半年くらい練習して、本番となりました。
さて、私は教員であった時代に、オーケストラ部の顧問でした。教員としては徹底的になめられていたダメ教員でしたが、オケの指揮者としては、耳がいいこと、および知識の多さで、どうにか団員の皆さんに言うことを聞いてもらえる練習指揮者でした。そんな卒業生さんの一人が、地元の大学オケで演奏することになっていた日が同じ日でした。お互いに聴きに行きたいと言っていましたが、行けないと思っていました。しかしどうやら私の本番は午後の明るいうちで、その学生さんの本番は近い場所で夜でしたので、私はそのオケの演奏会に行けるようでした。
本番当日は、私はピアノでの出番もありました。「採譜」といって、私は耳で聴いた音楽のほとんどを楽譜に起こすことができます。そうして楽譜に起こした音楽のひとつで、仲間の好きなヒップホップの曲があります。(それ以上に詳しいことは言えません。ほとんど知らない分野だからです。)それを弾いて、その仲間のラップの伴奏をしたのです。そのほかに、フルートでのイベールがあったわけです。
ときどき書いています通り、私は25歳のときに大きな二次障害をやりました。失ったものはたくさんあります。そもそも私が研究者になれなかったのはその二次障害ゆえです。失ったことのひとつに、フルートが極端にへたになったというものがあります。ほんとうにその病を境にして極端にへたになり、ひどい音しかしなくなり、もういくら練習してももとに戻らないのです。これは自分以外にこの症例の人をまったく知らないので(精神病で楽器がへたになる)、だれとも共有できない思いを抱えているわけですが、そのように2019年も、ひどい音で練習していました。もう開き直って久しいのです。しかし、その日は「本番の神」が降りてきました。ときどき「本番の神」が降りるときがあります。本番だけ、いつもよりマシな音で吹けたのです。ピアノの人から「なんですかあの本番の集中力は」とあとで言われました。スマホで撮った人の映像も見せてもらいましたが、確かにいつもより「マシ」です。とてもありがたかったです。
それから、少し時間をおいて、その学生オケを聴きに行きました。ラフマニノフの協奏曲第2番と交響曲第2番でした。ある(さきほどとは別の)ピアノの人と偶然、会いました。協奏曲のソリストと知り合いの知り合いくらいらしかったです。当日券がなくてあきらめて帰るところでした。私はその大学生から招待券を当日預かりにしてもらっていました。ダメ元でもう1枚をお願いすると、もらえました!それで、ご一緒にラフマニノフを楽しみました。とてもいい演奏でした。協奏曲第2番は、自作自演を彷彿とさせる出色の出来栄えでした。交響曲もよかったです。みんながんばった!
それからコロナとなり、演奏会という演奏会は中止となり、私は休職を始め、やがて失業し、このような教室を始めるに至りましたが、いまでもこのイベールの「2つの間奏曲」は大好きです。じつはいちばん最初に書いた西田さんのCDをいまだに聴いているのです。パソコンに取り込み、授業の前の8分くらいの時間調整に用いています。ひんぱんに聴いており、本日も聴きました。やはり西田さんがうまいという私の先生の言うことは本当でした。何度聴いてもいいのです。この曲はやった人が多い有名な曲のわりに、なぜか大演奏家がレコーディングしていない曲です。フルートで言えばランパルもニコレもゴールウェイもパユも録音していないではないか!しかし、西田さんの演奏はそういう大演奏家にひけを取らないすばらしいものです。YouTubeにいくつか動画がありますが、西田さんとは比較になりません。私の宝物のようになっています。
というわけで、長くなりましたが、おもにコロナ前のクリスマス会の出来事でした。この曲の西田さんのCDはあまりにもレアで、おそらくAmazonで中古がとてつもない値段で売られているか、そもそも中古すらないか、のいずれかであろうと思います。授業の前にしばしば聴いている音楽のひとつです。