シノーポリ指揮のベートーヴェンの「第九」を聴いた(2000年1月16日)

私のクラシック音楽オタク話のなかでも、横綱級の話を出しますね。大学院修士課程1年の2000年1月16日(日)に、渋谷のNHKホールで、シュターツカペレ・ドレスデンの来日公演を聴いたのです。曲はベートーヴェンの「第九」1曲で、指揮は故ジュゼッペ・シノーポリでした。
このころ、私は修士論文のアイデアが豊富に出ているころでした。2000年1月1日は大した「2000年問題」は起きず、7日から10日にかけては、京都で行われた研究集会(いわゆる学会)に行って、当時、読んでいたプレプリントの著者(Funar氏)に質問をしたりしています。
それで、この演奏会は招待券をいただいて行きました。買うと1枚、16,000円する高価なチケットでした。2枚、いただきました。東大数理の合唱をする仲間と一緒に行くことになりました。
当日は、日曜日でした。教会で、「子供の礼拝」で司会が当たっていました。まだ洗礼を受ける(=信者になる)前の話です。けっこう聖書の読み間違いをやらかしています。「大人の礼拝」まで出て、寮に帰り、少し勉強したあと、渋谷のハチ公前で、その友人と待ち合わせをしました。「ラ・ボエーム」という喫茶店に入ってコーヒーを飲んだのち、NHKホールに行きました。
以下のようなプログラムです。
ベートーヴェン 交響曲第9番ニ短調
指揮:ジュゼッペ・シノーポリ
ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
ソプラノ:イヴリン・ヘリツィウス
メゾ・ソプラノ:永井和子
テノール:ローランド・ワーゲンフューラー
バス:フィリップ・カン
晋友会合唱団
横浜市民ドレスデン「第9」を歌う会
合唱指揮:関谷晋
考えてみますと、私がこのベートーヴェンの「第九」を、プロの生演奏で聴いた唯一の機会でもあると思います。とてもぜいたくな機会でした。
演奏はすばらしかったです。ホルンの1番を吹いているのは、もしかして、伝説の名人「ペーター・ダム」さんではないかと思われました。はげ頭と白髪が、写真で見たダムさんに思えるのです。この「ダムさんらしい人」がオケから尊敬されているらしいことは、以下の第2楽章のホルンのソロで、「ダムさんらしい人」が少し遅れたとき、むしろ弦楽器の刻みの人が、ホルンに合わせるような演奏をなさったことからもうかがえます。

第3楽章の有名な4番ホルンのソロを吹かれたのも、その「ダムさんらしい人」でした。確かにとてもうまいかたでした。
また、「ダムさんらしい人」の隣で2番ホルンを吹く男性は、しばしば低音域で名人芸を発揮しておられました。たとえば以下の第4楽章の一場面では、非常に強調するような吹き方をなさっていました。

(すみません。私のFinaleの使い方のぎこちなさで、ホルンがへ管になってしまっていますが、ベートーヴェンはニ管で書いています。)
木管は倍管でした(4人ずつ吹いておられる)。フルートの4人目のかたが、第4楽章でピッコロに持ち替えられました。その人は非常に慎重であり、以下の、はじめてピッコロが出る場面の少し前からピッコロで吹いておられ、万全の調子でピッコロの場面を迎えられました。演奏も非常に抑制された慎重なものでした。

もっともフルートのかたもピッコロのかたも、オクターヴ上げは、できるところはすべてする方針のようでした。
こうしてみますと、私は特定の楽器ばかり注目していたことがバレるような記憶ですが(笑)、全体として、非常にすばらしい出来栄えでした。一緒に行った仲間も感激していました。彼はソリストに注目し、オペラ歌手のような歌い方であったことや、また、シノーポリの指揮は非常にわかりやすいといったことを感想として言っていました。きょうの演奏がCDになったら買うかも?とか言っていました。
日記によると、その日はオムライス屋さんに寄って帰っています。「いやー、長い、たのしい一日であった。(司会の疲れももう忘れた!)」と日記には記されています。
このあとも、その彼とはしばらくセミナーのときに、このときの演奏会が話題に上ったものです。
さて、この日のチラシやプログラムは残っていません。しかし、日記を執念深く読み返していて、見つけました。2000年1月16日のことであったのです。この記事を書くにあたり、インターネット検索をしてみますと、なんとこの日の映像は、のちにDVD化されていたのです!シノーポリ氏はこの翌年、2001年に、54歳の若さで亡くなりました。その追悼盤として出たらしいのです。そのCDが欲しいと言っていた彼は買ったのでしょうか?本日の記事のプログラムが詳細に書けたのもそのDVDのデータから写したからなのです。そして、この映像は、YouTubeに(おそらく違法に)アップロードされていました。鑑賞しました。それで、その「ダムさんらしい人」は、ほんとうにペーター・ダムであったことが、24年ごしにわかりました。私もこの演奏を生で聴いて以来、録画ではじめて見たことになります。感慨深いものがあります。
シノーポリ氏は生きていれば今年78歳であり、まだまだ活躍していてもおかしくなかったでしょう。私がシノーポリの指揮を生で聴いた貴重な経験となりました。本日の記事は以上です!