ジャック・ズーンによるイベールのフルート協奏曲を聴いた(2009年2月13日)

これはまたクラシック音楽オタク話ですが、よろしければお付き合いくださいね。

ジャック・ズーンというフルート奏者がいます。あるときフルートの先生から聞いた話で、非常にうまい奏者だということでした。もともと私はこの名前は、1988年ごろ、中学に入ってフルートを吹き始めたころから知っていました。そのころもらったCDで、ズーンの演奏するドップラーのハンガリー田園幻想曲(管弦楽伴奏版)があったのです。CDというものの初期であり、そのころはまだズーンの日本語表記が定まっておらず、「ジャック・ゾーン」と書いてありました。そのCDはいまでも持っています。それを聴いてとくに「これはうまい!」と感じたわけではありませんでしたが、確かに先生の言う通り、ズーンは非常にうまいのでした。そのころ聴いたなかでは、図書館で借りて聴いたCDで、ヴァレーズの「比重21.5」という無伴奏フルートの曲があります。確かにうまいです。(シャイー指揮コンセルトヘボウ管弦楽団によるヴァレーズ作品集のCDに入っていました。当時ズーンはコンセルトヘボウ管弦楽団の首席奏者でした。)

私は、ズーンの生演奏を聴くことなく、2006年、30歳で、(博士論文が書けず、)失意のうちに中高の教員になりました。なったら徹底的なダメ教員でした。その3年目、2008年の5月ごろ、その年度の最後のほうである2009年2月13日に、ジャック・ズーンが来て、イベールのフルート協奏曲をやるとチラシで見ました。迷いました。そのころはすでに睡眠障害に悩まされる日々であり(いまもですが)、その日は金曜日であり、翌日土曜日も学校があったのです。それで行くかどうか半年ほど悩んだ挙句、結局、行くことにしたのでした。行ってよかったです!

その日のプログラムは以下でした。

ワーグナー 「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死

プーランク=バークリー フルート・ソナタ(フルートと管弦楽版)

イベール フルート協奏曲

プロコフィエフ バレエ音楽「ロミオとジュリエット」抜粋

いずれの曲もよく覚えています。トリスタンの有名な曲を聴いたのち、いよいよズーンの出番です。バークリー編曲によるプーランクのフルート・ソナタの管弦楽伴奏版は、いまでこそだいぶ一般的なレパートリーとなったようにも感じますが、当時はなかなか珍しい選曲だったと思います。イベールのフルート協奏曲も、私は生で聴いた唯一の経験となっています。

ズーンは、おもにオーケストラの中で演奏するところを見て(聴いて)来ました。あまりソロ録音のCDなどの多いフルーティストではなかったのです。パーヴォ・ベルグルンド指揮ヨーロッパ室内管弦楽団によるシベリウスの交響曲全集などで聴いて来ました(このCDにはオケのメンバーの名前が書いてあり、1番フルートはズーンなのでした)。この日はソリストとしてのズーンを聴くことになります。想像していたのとはかなり違いまして、暗譜で、ソリスティックに、アグレッシブに吹くタイプでありました。パーフェクトな演奏をするというより、80パーセントくらいの出力で、あとの20パーセントはノリで、という感じであったと当時の日記にも書いてあります。とにかく非常にうまかったです。

プーランクとイベールを聴いて、心底、満足しました。さて、そのあとのプロコフィエフを聴くかどうか。これも迷いました。なにしろ、睡眠障害との戦いであったわけです。少しでも早く帰って寝るべきか・・・。過去に以下のようなことがありました。高校生くらいのころです。フルートのニコレが来日し、東京でモーツァルトの協奏曲を演奏すると。詳しくは覚えていないのですが、先生に誘われて行きました。このとき先生は、協奏曲のあとのワーグナーを聴かずに帰ったものです。せっかくのニコレを、ワーグナーで「耳汚し」したくなかったらしいです。ごめんなさいね、プロコフィエフのロミオとジュリエットを「耳汚し」とは思いませんが、とにかく睡眠障害との兼ね合いで、聴くかどうか迷って、聴いたのです。なかなかすごい曲ですよね、プロコのロミジュリって。「タイボルトの死」など、強烈すぎて、私は残って続きを聴いたことを後悔しそうになりました。しかし、この日にはアンコールがあったのです。この日は「バレンタイン・コンサート」という位置づけでした。アンコールにエルガーの「愛のあいさつ」が演奏され、かなりなごみました。とてもいいアンコールでした。よく覚えています。そして、会場を去るとき、けっこう立派なサイズのハート型のチョコレートが配られており、それをいただいて帰りました。

仕事、仕事で、ひいひい言っているころの、珍しい演奏会の思い出でした。これが私にとってジャック・ズーンを生で聴いた唯一の機会となっております。

これの少しあと、私はテレビでやっていたクラウディオ・アバド指揮ルツェルン音楽祭管弦楽団によるマーラーの交響曲第7番を録画しました。ズーンが1番フルートを吹いていたのです。しかし、この演奏は、ズーンが1番フルートを吹いているかどうかにかかわらず、マーラーの交響曲第7番の、非常にすぐれた演奏だと思います。アバドの最晩年のマーラーの交響曲はいずれもすばらしく、とくにルツェルン音楽祭管弦楽団を指揮した一連の演奏は大変すばらしいです。そしてその多くはズーンが1番フルートを吹いています。

本日は、ジャック・ズーンの協奏曲演奏を生で聴いた貴重な機会の演奏会の感想を、当時の日記および鮮明な記憶から、15年ぶりに書いたという記事になりました。私もようやく「どろぶね」から降りつつあります。これから、行きたい演奏会に行く日々が待っているのかもしれません。人生は楽しまないとね!

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