世界的フルート奏者ジェームズ・ゴールウェイの還暦記念コンサートを聴いた(1998年5月5日)

またクラシック音楽関連の昔話をさせていただきますね。1998年5月5日、学部4年のときに、世界的フルート奏者であるジェームズ・ゴールウェイの還暦記念コンサートを聴いたのです。その思い出です。

日記によりますと、チケット購入は1月30日であり、ずいぶん前からチケットを買っています。どうしても聴きたかったのです。

ゴールウェイは、とても有名なフルート奏者です。1998年の当時は、音楽を聴くとしたら、ラジオ等の放送を除けば、おもにCDで聴く時代だったと思います。CDで聴きますと、ゴールウェイはものすごくうまいフルーティストでした。個人的な好みで言いますと、ゴールウェイには独特の節回しがあり、クセが強いという印象を持っていましたが、そういう好き嫌いの問題を超越してものすごくうまかったので、ぜひ生で聴きたかったのでした。ゴールウェイは1939年生まれ、このとき59歳だったことになります。

会場は、すみだトリフォニーホールでした。連休中、午後3時からでした。一日中よく晴れていて、連休を楽しむ人たちがたくさん見られる日であったと日記には書いてあります。プログラムは以下です。

シューベルト アルペジオーネ・ソナタ

マルティヌー フルート・ソナタ

ゴーベール フルート・ソナタ第1番

モルラッキ スイスの羊飼い

ローウェル・リーバーマン フルート・ソナタ

ジェームズ・ゴールウェイ(フルート)
フィリップ・モル(ピアノ)

いま考えてみると通向けのプログラムと言いますか、フルート業界曲をよく知っている人向け、それ以上にゴールウェイのファン向けのプログラムであったようです。

シューベルトのアルペジオーネ・ソナタは、よくチェロとピアノで演奏されますが、このときのように、フルートとピアノでもしばしば演奏される曲です。ゴールウェイの小さく高く美しい音がホールのすみずみを満たし、感激した覚えがあります。

ゴールウェイと、ピアニストのモルで視覚的に印象に残っていることは、かなり身長差があったことです。モルのほうがずっと背が高いのです。並んでお辞儀をするときに、そのコントラストは顕著でした。

シューベルトに続き、マルティヌーのソナタを聴きました。これもフルート業界では有名な曲です。すばらしい演奏でした。休憩をはさんでゴーベールのソナタ。マルティヌーが、クラシック音楽の好きな人のあいだでは割と知られた作曲家(ほんとか?マニアックな気もしますけど)なのに対し、ゴーベールは、おもにフルート業界で知られた作曲家です。つまり、このコンサートは、あとになればなるほど、通向けの曲になるようにプログラムが構成されていたことになります。ゴーベールもすばらしい演奏でした。

モルラッキの「スイスの羊飼い」は、もうかなり通向けです。私がかろうじてこの曲を知っていたのは、まさにこの演奏会の少し前、ゴールウェイ自身の新しく発売されたCDのなかに、この曲が入っていたからです。この演奏会のプログラムにおける唯一の「ソナタ」でない作品で、主題と変奏でした。親しみやすい曲です。

最後が、リーバーマンのソナタでした。リーバーマンという作曲家は私の知る限り2人いまして、ロルフ・リーバーマンという人もいました(「フリオーソ」というオーケストラ曲を書いた作曲家)。このたびはローウェル・リーバーマンのフルート・ソナタでした。このころ、ゴールウェイはリーバーマンのフルート曲をいろいろ取り上げていました。そのうち、ラジオで聴いた曲もあったと思います。ただこの「フルート・ソナタ」という曲は、私は聴いたことのない曲でした。聴いてみますと、演奏効果に富んだエキサイティングな曲でした。前の曲のモルラッキと雰囲気がガラリと変わりました。私が最も驚いたのは、曲が終わったあと、皆さんがすぐに拍手喝采をなさったことです。この曲の「終わり」がわかっているからこそ、聴衆の皆さんは、終演後すぐに拍手をなさったのでしょう。聴きに来ておられる皆さんの通ぶりに私は圧倒されたのでした。

このリーバーマンのソナタを国内ではじめてCDを出したのは確か高木綾子さんであり、この演奏会よりもあとです。いまではかなり有名な曲となりました。

さて、アンコールです。日記によると5曲あり、私の記憶が鮮明なのはうち4曲です。日記もその記憶不鮮明な1曲については適当にしか書いてありません。こういうことに詳しそうなムラマツ楽器さんに、この記事を書くに当たり電話で聞いてみましたが、さすがにアンコールはわかりませんでしたね。

まず、フォーレのヘ長調の小品からです。これは私も学部1年の終わりごろにレッスンで習ったことがあります。美しく短い曲です。ところがゴールウェイは吹き始めては何度も演奏を中断しました。そして、ついに舞台を去り、新しい楽器を持って再登場し、改めてこの曲を吹きました。どうやら、楽器の調子が悪くなったのですね。さっきのリーバーマンの難曲の最中でなくてよかった、と思いました。

次の曲が記憶不鮮明です。日記には「マーレ―の知らない曲」としか書いてありません。なんとも言えません。

次に、ゴールウェイは大きな声で「レディス・アンド・ジェントルメン!!マイ・ワイフ!!」と言いました。奥さんの登場です。奥さんのジニー・ゴールウェイもフルーティストであったのでした。フルート2本とピアノのための(業界では)有名な作品である、ドップラーの「アンダンテとロンド」の後半部分である「ロンド」の演奏となりました。奥さんの出番はこれだけです。

そして、再びひとりで「ダニーボーイ」を吹きました。ゴールウェイはアイルランド出身であり、アイルランド民謡のこの曲を得意にしているのでした。私はゴールウェイの生を聴いたのがこのときだけですが、必ずアンコールでやる定番のようでした。そして最後にリムスキーコルサコフの「くまんばちの飛行」を吹いて終わりとなりました。

席は遠かったですが、大きな美しい音で、すばらしかったです。とてもいい思い出になりました。

日記を見ると、学部の4年生で、専門をどうするかで悩んでいるところです。しかし、W.Thurstonの「Three-Dimensional Geometry and Topology」で輪読をしており、充実した日々を送っているころでもあります。3次元ポアンカレ予想の解決前のころでした。本日は長い昔話でした。ときどきはこういうお話にもどうぞお付き合いくださいね!ではまた!

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