中卒の大人の生徒さんと学ぶ円周率の本質

また、当教室での授業の様子を公開させていただきますね。公開に当たり、生徒さんの許可は得ています。
前にも登場させていただきました、日本でいちばん低い学歴を持つ中卒の大人の生徒さんです。およそ2年前に入門なさり、小学校3年生の教科書から1ページも飛ばさずに、現在、小学5年生の教科書に到達しています。この生徒さんは受験というものを経験されていないゆえに、「勉強=テスト勉強」という観念がなく、毎回、非常に学問的な学びが展開されていて、私も勉強になることばかりです。最近、円周率を学びました。
円周率の定義ののち、先日は、円の直径の長さと円周の長さが比例することを学びました。その生徒さんは、円の直径の長さと円周の長さが比例することの直観的な認識など、いろいろ絵を描いて考えておられました。私が、円の直径の長さと円の面積が比例するかをおたずねしますと、「円の面積はやっていませんね?」とおっしゃいました。その通りです。円周率をやったばかりですから、円の面積はまだ扱っていません。それで、円の直径の長さと円の面積は比例する気がすると言いながら、いろいろ考えたすえ、以下のような絵をかかれました。直径が倍の円の面積は、もとの円の倍(2個ぶん)の面積より広いということを示した「文句なしの絵」です。これは見事だと思いました!

いろいろ話していて、その前の授業で扱った、円周率は3より大きいことの教科書の説明に感銘を受けた話をしてくださいました。これは私自身もはじめて習ったとき、感銘を受けたものです。40年近く前、私が小学生のときの担任の先生は、円に内接する正六角形をかき、その辺の長さの和は半径の長さの6倍、すなわち、直径の長さの3倍であり、円周の長さはそれよりもやや長い、したがって円周率は3より大きい、という説明をしてくださったのでした。現在の教科書にもそのような説明がしてあります。この生徒さんは、そのことに深く感動しておられたのでした。
まったく別の私の友人の話になります。彼は塾講師をしながら人に会いに行く活動をしています。最近(ここ1年くらい?)東大の有名な入試問題の過去問で、円周率が3.05より大きいことを証明せよ、というのを解いてみて、これは円周率の定義を問うている、と思ったそうです(私もはじめてその問題を聞いたときはそう思いました。先述の小学校の先生の説明を思い出したものです。おそらく円に内接する正十二角形くらいで近似すれば3.05は超えるであろうことは想像がつきました。この問題は出した先生が賢いですね)。それで、彼はいろいろな人に会いに行く活動をしていて、数学が好きなかたに出会うと、円周率の定義を聞いてみるそうですが、なかなか正確に円周率の定義を答えられる人はいないそうです。
本日、ご紹介している中卒の大人の生徒さんの話に戻ります。この生徒さんは、私の授業で「円周率を学ぶ」ことは「円周率とはなにかを学ぶ」ことだと認識しておられます。当たり前だと思うかもしれませんが、多くの人は「円周率を学ぶ」ことは「円周率の出てくる問題が解けるようになる」ことだと認識しておられると思います。この生徒さんは、円周率に限らず、すべてこのように認識して勉強しておられます。いま小学5年生の教科書を学んでおられますが、私は「標準的な小学5年生よりずっと実力がおありですよ」と申し上げました。
実際、この生徒さんは、円周率とはなにかということについてしっかり味わって理解しておられる点について、先述の東大を受験する高校生の多くの皆さんよりずっと「賢い」と言えるわけです。しかし、この生徒さんは、その下に書いてあった教科書の簡単な練習問題を解くのには時間がかかっていました。この生徒さんはその意味で受験的な器用さはないものの、本質を追求する姿勢は確かです。
最近、この生徒さんとは、割合を表すグラフ、すなわち帯グラフや円グラフを学び始めました。これからもご一緒に算数・数学を学んで行きたいと願っています。
