修士課程1年のときの「一世一代の大演奏」(動画あり)

私は中学に入って吹奏楽部に入ったときからフルートを吹いています。近頃はめっきり吹いていませんが(吹く環境にない)、しばらく「へた」だったものです。東大に入り、東大に入ったばかりのころは「へたな1年生」という烙印を押されていました。実際、へただったと思います。私の先生まで「へたな先生なのだろう」と思われてしまっていて、先生にも申し訳ないような気がしていたものです。

そのうち、私は大学3年の頭で東大オケをやめてしまい、引き続き統合失調症の最初の症状を出して学業も休み始めました。1996年、20歳のことでした。1年後、1997年に学業と音楽活動に復帰。社会人オケに入りましたが、1年くらいでまた退団。この修士課程1年のころ、1999年は、どの団体にも所属していませんでした。

ただし、フルートはめきめき上達して行きました。私の先生は非常な実力者であり、先生のおっしゃるように練習をした私は、明らかにうまくなっていったのです。この1999年のころは、しばしば音大生、あるいはプロと間違われるほどになっていました。(ホラもほどほどにせねば。本日は、はじめて当時の音源を出すつもりなのだから。(笑))

私は、1999年8月22日の発表会で、「一世一代の大演奏」をなしとげることになります。それはゴーベールの「夜想曲とアレグロ・スケルツァンド」という曲においてでした。この曲は近代フランスの作曲家で自らフルート奏者でもあったゴーベールの、フルートとピアノのための数分の小品です。フルートの業界ではわりと有名な曲かもしれませんが、私自身は当時それほどよく知っている曲ではありませんでした。(その前の年くらいに買ったゴールウェイのCDに入っていたので知っていたくらいです。)

当日のプログラム、および日記から当時の様子を再現しますね。最後に、YouTubeにアップした当時の演奏そのもののリンクをはります。

日記は前の日から書きますね。このころはもっぱら修士論文のもととなる当時の最新のプレプリント(出版前の論文)の勉強、仲間とのセミナー(勉強会)、教会学校のキャンプの引率、と充実した日々を送る自分の姿が描かれています。

1999年8月21日、本番前日ですが、ピアノを担当する音大生の女性の仲間と一緒にレッスンを受けています。この日は、先生は火のついていないろうそくを持ってこられ、それを吹き消すようにおっしゃいました。私がやると、ほめてもらえたと日記に書いてあります。ピアニストにもほめられています。このときのピアニストはコンクールを控えていたと発表会のプログラムには書かれています。どういう年齢関係であったか不明ですが、私のことを「くん」付けで呼んでこられた、と日記にあります。そのほか、本番前日ということで、いろいろな仲間の「本番直前ピアノ合わせ」と一緒になりました。プーランクのソナタを伴奏したのは私の伴奏者と同じ音大生でしたが、第3楽章のクライマックスでものすごいアッチェレランドをしており、先生は苦笑いをしていたことを思い出します。アイスをいただいたりもしています。

この日の夜は、あるヴァイオリンの先生のリサイタルを聴いています。その共演ピアニスト(当然ながら先述の誰とも違います)の先生とのつながりでいただけた招待券だと思います。プログラムは以下でした。

バッハ ソナタ第1番
モーツァルト=クライスラー ロンド
ベートーヴェン ソナタ第7番
サラサーテ カルメン幻想曲
フォーレ ソナタ第1番
アンコール ラフマニノフ ヴォカリーズ
      ドヴォルザーク 母の教え給いし歌

ベートーヴェンのソナタの開始におけるそのピアノの先生の集中力が非常に印象に残っています。

終演後、楽屋に行きました。そのピアノの先生にお会いしました。翌日のわれわれの発表会を聴きに来てくださるようでありました。

そして、8月22日、本番当日です。緊張しながら起きて来ました。プログラムは以下です。

ヴァイオリンとピアノ

01.イギリス民謡 メリーさんの羊
02.ファーマー 「埴生の宿」変奏曲
03.フィオッコ アレグロ
04.コレルリ ラ・フォリア

フルートとピアノ

05.ドルスレール プティトリアノンにて
   フィンガー ソナタ ト長調 第1楽章
06.レルメス 間奏曲
07.ヴァンハル ソナタ ニ長調op.17-1
08.バッハ ソナタ ト短調BWV.1020
09.バッハ ソナタ 変ホ長調BWV.1031
10.ゴーベール 夜想曲とアレグロ・スケルツァンド(これが私!)
11.ポップ ポロネーズ
12.スヴェンセン ロマンスop.26
13.ハイドン 協奏曲ニ長調
14.ドップラー マズルカop.16
   ガンヌ アンダンテとスケルツォ
15.ゴーベール 幻想曲
16.シュターミッツ 協奏曲ト長調op.29より第1楽章
17.ドップラー ハンガリー田園幻想曲
18.フォーレ 幻想曲

ユーフォニアムとピアノ

19.ダーフィト 小協奏曲op.4

フルートとピアノ

20.シャミナード 小協奏曲ニ長調op.107
21.テュルー グラン・ソロ第2番ニ短調op.74
22.プーランク ソナタ
23.グリフェス ポエム

ピアノ独奏

24.リスト ハンガリー狂詩曲S.244-12
25.バッハ トッカータ ト長調BWV.916
   バーバー ソナタ変ホ短調op.26

フルートとピアノ

26.ライネッケ ソナタ「ウンディーヌ」ホ短調op.167

フルートとヴァイオリン

27.ゲンツマー 喜遊曲

私はヴァイオリンの2番くらいから聴いています。ヴァイオリンを4人くらい聴き、舞台の感じを見たあと、控室へ行っています。この回の発表会の男性は、(フルートの)先生を除くと2人しかいませんでした。もうひとりは、9番でバッハの変ホ長調ソナタを吹かれた、大学の先生を定年退職されたベテランのかたでした。ときどきレッスンの前後でご一緒になったこともある、温厚な先生でした。男性控室はなぜか17番の女の子が来てドップラーをさらっていました。「多分、ひとりで学校が違うから友達とかもいず、ここにひとりで来ていたのであろう。お互い『緊張仲間』ということで、いろいろ話した」とあります。

すぐに私の番は来ました。10番ですから当たり前です。前がそのベテランの大学の先生です。ウラでその先生の演奏を聴き、自分の番となりました。

日記から引用します。

「本番は、緊張したが、本当にヒドいときほどではなく、総じて(○○さん―ピアニストさん―のおかげもあり)気持ちよく吹かせていただくことができ、冷静に考えても、これを上出来と言わなかったらバチ当たりかもしれない。満足です。感謝。終わって先生にもほめられた。嬉しかった」と書いてあります。

これが、私にとっての「一世一代の大演奏」なのです。少し、この曲に決まる前のことから書きたいと思います。

この数か月前は、タファネルの「アンダンテ・パストラールとスケルツェティーノ」を習っていました。これもフランスのフルート音楽であり、愛すべき小品です。これも人前で吹くチャンスはありました。ある教会でのコンサートで吹いたのです。そのときのことはかつてブログ記事にしたことがあります。その流れで、ルイ・モイーズの編集したフランスのフルート音楽を集めた楽譜を購入することになり、先生からまた与えていただいた曲なのです。この曲(ゴーベールの夜想曲とアレグロ・スケルツァンド)をやることになって、購入したCDで、往年のパリ音楽院管弦楽団およびパリ管弦楽団首席フルート奏者ミシェル・デボストのものがあります。おおざっぱなアンサンブルとフランスらしい(?)節回しが魅力の2枚組のCDであり、いまでも好んで聴きます。好きなので、この7年後である2006年の自分の結婚披露宴のBGMにも使ったCDです。また、この曲の冒頭を、先生は、ホルンのオクターヴ・ユニゾンであるとおっしゃっていましたので、オーケストラ伴奏のCDも買い求めました。それが当時のイギリス室内管弦楽団首席奏者のウィリアム・ベネットのCDです。(冒頭は木管のオクターヴ・ユニゾンでした。)これら先述のゴールウェイのCDと合わせて3種類は、いまも持っている大切なCDです。さて、これらの演奏に共通する不満があり、私はこの日の本番で、緊張が解けてから、自由に吹きました。

この録音を聴いていただけたらわかるのですが、冒頭の数小節は、音程が安定しません。緊張のしすぎで、音が震えていたのです。吹きながらもうひとりの自分が「また自分は緊張しているな」と笑うように思ったら一気に緊張が解け、あとはのびのびと吹けたのでした。そこで、以下の譜例をご覧ください。

モルト・リタルダンドと書いてあります。すごくゆっくりにするのですが、既存のCDでは、そこまでゆっくりにしてはいません。私はここで調子に乗り、ほんとにものすごくリタルダンドをしました。(多くの演奏は、つぎのフレーズへ息をとらずに進めるためにそれほどリタルダンドをしないのだと思います。私は思い切りリタルダンドしたあと、たっぷり息を取りました。)

もうひとつはアレグロ・スケルツァンドに入ってからです。以下のように、夜想曲のテーマが回帰する場面があります。楽譜では、なぜか以下の場所にブレスがあります。どうにも楽曲の構成として論理的であるとは思えないのですが、デボストをはじめ多くの演奏家はこの楽譜の通りの息継ぎをします(上の楽譜)。私は楽譜に逆らい、以下のような箇所で息を取りました(下の楽譜)。こちらのほうが楽曲のアナリーゼとして、適切なブレスの箇所になると思います。この演奏から25年がたついまでも、この息継ぎの箇所はこれが正しいと思います。

さて、プログラムを見ていて思い出すのは、私もやったことのある曲として、5番さんのフィンガー、12番さんのドンジョンは、中学生だった初心者のころ習ったほか、7番さんのヴァンハルのソナタもレッスンで習ったことがあります。ヴァンハルのソナタは以下のような歌詞をつけたくなるこれも愛すべき曲です。

自分の出番の終わったあとは、早めに終わりましたし、他の人の演奏を聴いていました。19番のユーフォニアムの高校生は、大学入試(音大をお受けになったのでしょう)を控えているとプログラムに書かれていますが、非常にうまかったです。また、ピアノ独奏のふたりは、いずれもコンクールを控えた音大生でしたが、これもすばらしいものでした。25番のバーバーのソナタは、第1楽章のみの演奏でした。終わってから例の前日にヴァイオリン・リサイタルでピアノを弾かれた先生が「なぜ全楽章をやらなかったの?これは第4楽章のフーガがいいのに」と冷やかしたように言いますと、25番さんは、仕上がらなかったと笑いながらおっしゃっていました。このバーバーのピアノ・ソナタは非常に盛り上がる名曲であり、いまの私はもっぱら初演者であるホロヴィッツのすばらしい演奏で楽しく聴いています。

26番のライネッケと、27番のゲンツマーは、先生の演奏です。貴重なものが聴けました。そのピアノの先生と一緒に帰りました。

録音は、あとからいただきました。録音を担当したある男性から、あとで聞いたエピソードとしては、めったに人をほめなかった私の先生が、私の演奏を聴きながら「音大を受ける子がせめてこれくらい吹けたら・・」とおっしゃっていた、という話でした。誇らしい話として覚えています。

最後に、その日の演奏を動画にして星くず算数・数学教室のYouTubeチャンネルに上げたもののリンクをはります。音源だけなので、映像はありません。それでは、どうぞお聴きください!

(先述の通り、冒頭の数秒は緊張のあまり音程が安定しません。それと、このときのピアニストさんとは連絡がつかなくなっています。いま先生に聞いてみても、もうだいぶ前から連絡を取っていないとのことでした。もしも、この記事をお読みになられましたら、ご連絡をくだされば、と思います。ちゃんとYouTubeへのアップのおゆるしを得たいと思います。当時の感謝も改めて申し上げたいです。)

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