学校の先生よりも積分がよくわかっている大人の生徒さん

当教室での授業の様子のご紹介をいたしますね。ご本人の許可は得ております。以前、大人の生徒さんで、高校時代に微分を習っておらず、当教室で微分を学び、いきなり微分の本質を理解なさった生徒さんをご紹介いたしましたが、そのかたのその後です。

その生徒さんは、引き続き、積分を学ばれました。高校の「数学Ⅱ」の教科書に沿っています。大学で教養数学の微分積分を学ばれたかたには、高校の積分はいんちきくさく思われるかもしれませんが、私は、大学で本格的な微分積分を学ぶ前に、高校での「直観的な微分積分」を学ぶ必要があると思っていますので、とりあえずそのかたには、高校の数学のテキストに沿って積分のご説明をしております。確認しますと、高校ではまず微分の逆の計算として不定積分を学び(まずは多項式関数に限られます)、じつは積分すること(微分の逆の計算をすること)で関数のグラフの下の部分の面積が求められることを見、それをモチベーションとして定積分の定義をし、定積分の計算練習を積んだのち、おもに放物線等で囲まれた部分の面積を求める計算をする、という順序になります。

そのかたには、まず微分の逆の計算として不定積分をご説明いたしました。不定積分は、積分定数のぶんだけ違いが出ますので、そのかたは、その部分の理解にはとても注力なさいました。あらためて思い出したのは、多くの高校生は、積分定数でこれほど惑わないということです。逆に言うと多くの高校生は、ちゃんと積分定数という概念を理解せずに先に進んでおられるのです。これは後述します。

そして、積分という、微分の逆の計算をすることによって、面積が求められることを確かめました。このかたは、またも直観的ながら、積分の本質を理解なさいました!やはり、大人になってからでも「高校時代に習っていないので余計な先入観がない」という点および「高校生と違ってテストや受験を控えているわけではない」という2点によって、微分や積分の本質的な理解に至る大人は存在しうるということを目の当たりにしました。

私が高校教員だった時代に、ふと以下のように漏らすベテランの数学教員(彼は教頭でした)がいました。「aからbまで積分すると面積が出るのだ。ふーんという感じだろ」。彼は、なぜ「はじっこからはじっこを引くと面積や体積が出るのか」という積分の本質を理解していないということを露呈していたのです。これは高校の職員室では「恥」ということになりそうですが、彼は恥をかいていません。なぜなら、その程度の認識が高校教員の「普通」だからです!じつは、積分の本質を理解していない彼のような高校の教員が主流なのです。ではどうして高校の数学の先生が勤まるかと言いますと、やり方だけ教えているのです。ご本人も、自分が本質を理解していないという自覚はありますまい。それが数学だと思っておいでなのです。恐ろしい話でしょう。(じつは大学の数学の先生でもこの水準の人は少なからずいることも私は知っていますが、その話は今回は置いておきましょう。)

じつは、学生時代に、サインやコサインは習ったけれども忘れた、と思っておいでのかたは多いことに気づかされて来ました。私の高校教師としての経験ですと、それは忘れたというよりも最初から理解していなかった可能性のほうが大きいのですが、皆さんテストで「マル」がもらえると、自分は理解したのだ、と思われるものですから、学生時代にサインやコサインをやってマルがもらえたということは、当時は理解していたのだ、いまは忘れたのだ、と認識なさっているというわけです。

積分も同様です。数学に限らないかもしれません。「マル」がもらえると「自分は理解できた」と思って先に進まれるのでしょう。先述の「積分定数」の話も、とにかくマルが来ればそれでいいですので、それで皆さん先に進まれるだけなのです。教員もそうです。とにかくマルが来ることがわかったことそのものだという認識であるため、そもそも自分自身も実はわかっていないことが認識できていないのです。

私は、高校時代に積分を自分で発見しました。最初に習ったのは数学より前、理科の物理で、位置と時刻と速さの概念を習ったときです。時刻が少したつと、位置が少し動きます。つまり微分に相当するものを習ったわけです。これはおもしろいと当時の私は思いました。この考えをうんと発展させると、面積や体積が出るだろうと考え、自分で積分を見つけていたのです。円錐の体積が円柱の体積の${\frac{1}{3}}$であることは、習う前から説明できました。

その生徒さんも、この考えに至ったわけです。多くの標準的な高校の数学の先生よりも(そして一部の大学の数学の先生よりも)、ずっと優秀な生徒さんとなられました。ご自身の頭で、微分の逆で面積が出ることを理解なさったのですから!

その生徒さんに、まだ、円錐の体積の話はしていませんが、多項式関数の定積分の計算までやりましたので、もう次の回にはご説明が可能でしょう。また、もともと私は、これを4次元で考え、2次元で${\frac{1}{2}}$(三角形の面積は長方形の面積の半分)、3次元で${\frac{1}{3}}$になるなら、4次元では${\frac{1}{4}}$になると思ったものですから、それで自分で積分を発見したという次第なのです。その、4次元では${\frac{1}{4}}$になる話もその生徒さんとできるだろうと思っています。これからが楽しみです。

というわけで、高校時代にほとんど数学を勉強せずに大人になった人が、いきなり微分や積分の本質に到達することは充分にある話なのです。受験テクニックが身につくわけではないにしても、多くの高校の先生よりもずっと本質的に積分のスピリットを習得することは可能なのです。どうぞお気軽にご入門ください。数学がわかると楽しいですよ!

目次