小学校でかけ算を習う意義

授業の様子を紹介させていただきますね。公開に当たり、ご本人および親御さんの許可は得ております。

比較的最近、入門なさった小学生の生徒さんです。2年生で習った九九について、あまり得意でないとのことで、小学2年生で習う九九の勉強から始めました。

教科書は、かけ算の導入として、遊園地の絵を描いていました。大ざっぱに「ジェットコースター1台に乗れる人数が5人」「ジェットコースター3台に乗れる人数は15人」というふうにかけ算を導入していくように書かれている教科書のようでした。しかし、私は、教科書はあくまで「かけ算の話」をしているというより「遊園地の話をしている」と感じたため、しばらく、その生徒さんとは、具体的に遊園地の話をし続けました。それこそが学問であり、「遊園地をとっかかりとしてかけ算の話をする」というようなものは学問として本末転倒であると感じました。この私の方針を理解してくださる親御さんで助かりました。そのお子さんとは、じょじょに信頼関係が作られて行ったように思えました。極めてありがたいことです。

その生徒さんとは、お寿司の話もいたしました。一皿にサーモンは2つずつ乗っていること。これも、かけ算への導入というより、あくまで「お寿司の話」そのものをいたしました。一貫のイクラの寿司でどれくらいのイクラの粒が使われているか、また、一貫のお寿司でどれくらいの米粒が使われているか、も考えてみましたが、これらはお互いに想像を絶していました。

教科書でかけ算を導入し、身近なかけ算を考えるところに来ました。その生徒さんは、身近なかけ算の例が、どうしても出せませんでした。30分以上、お考えいただきましたが、出ませんでした。私がたとえば「一日に何回、食事をしますか」とおたずねしますと「3回です」とお答えになります。「では、一週間で何回、食事をしますか」とおたずねしますと「21回です」とお答えになります。ここで3×7という計算をすることについては、九九を使って計算できるのです。しかし、それでも、身近なかけ算の例を挙げることはおできになりませんでした。この生徒さんが、根本的に九九が苦手であるという、根源の理由に近づきつつある気がいたしました。

しかし、最近、この生徒さんは、身近なかけ算の例を挙げることがおできになりました。学校の先生がおっしゃっていた例らしいのですが、ハンバーガーをひとり4個ずつ配ることにし、3人に配るためには、ハンバーガーを12個用意する必要がある、という例です。確かにこれはかけ算の例になっています!しかし、「ひとりでハンバーガー4つ」というのは、いかにも量が多いわけです。その生徒さんも、どれほどおなかが減っていても、ハンバーガーをひとりで4個、食べることはないとおっしゃっていました。ここで、お互いに、4個くらい食べると、ちょうどおなかがいっぱいになる食べ物を考えました。かっぱ巻き4個ではおなかはふくれません。唐揚げ4つは多すぎだそうです。しばらく話し合ったすえ、その生徒さんは、ぎょうざを5個食べると、ごはんのおかずとして、一食にちょうどいい、という例を出されました。

かけ算というのは、「4の3つぶん」などと言い、数に数が作用するという、メタ的なもので最初に習う概念です。これが、6年生で習う比例と反比例につながり、中学での関数、高校での三角比・三角関数や微分・積分の基礎となっていきます。これからも、この小学生の生徒さんと、かけ算の本質を追求して参りたいと思っております。

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