映画になりそうな東大のA先生

私はかつて東大と東大の院の学生でした。数学(位相幾何学)を専門としていました。A先生という「悩める研究者」がおられました。幾何の助手でした(「助手」はいま「助教」と言っています)。先輩でもよく「Aさんに聞いてみるわ!」とAさんに相談に行く人はいたものです。Aさんは、ずっと助手でした。私が修士論文を提出した2000年ですでに助手であり、私が博士論文を出すことができず東大数理(ホーム | 東京大学大学院数理科学研究科理学部数学科・理学部数学科 (u-tokyo.ac.jp))を脱落する2006年にも助手でした。(同様の助手の先生でBさんがいるのですが、Aさんとほぼ同じような人生であるため、以下では「Aさん」と言ったらBさんも含めるものとします。)

私が、すっかり中高のダメ教員になってもがいていたころの話です。しばしば私は嫉妬心から、当時の先輩・同輩・後輩の名前で検索していました。皆さん順調に出世なさっています。2022年現在、私も47歳になりますので、その皆さんの多くは名門大の教授か准教授です。それで2010年くらいに、Aさんの名前で検索したのです。われながら悪趣味です。ひどい悪口がたくさんヒットしました。おもに研究者の卵が、2ちゃんねる等でAさんの悪口を書いているのです。研究者の卵からしたら、そのように「無能な」人が、「東大の助教」などというアカデミックポジションに座っているのは目障りだったでしょう。いかにAさんが無能か、いかに論文を書いていないか、いかに書いても引用されていないか、これでもかと書いてあり、胸が痛むほどでした。

それから10年くらいが経過した2020年ごろ、また私はAさんの名前で検索しました。悪趣味です。なんとAさんはまだ東大の助教でした。私の後輩がもうだいぶ前から東大の准教授ですが、その下で、助教をしています。しかも、ホームページが毎年、更新されていました。生きておられる!のみならず、活動しておられる!驚いた私はさらに検索して、以下のことを知りました。

Aさんは、東大の駒場の教養学部生に、徹底的に親切に教養の数学を教えるプロとして生き残っておられたのでした。東大生というと優秀なイメージがあるかもしれませんが、入ってすぐ落ちこぼれる東大生も少なくありません(塾や予備校で手取り足取り親切に教わってようやく入って来た学生に多いです)。Aさんはそんな「落ちこぼれ東大生」に徹底的に手厚いのでした。ものすごく親切で丁寧な教養数学のプリントをつくって授業をしているらしい(その代わりボリュームがあるようですが、それを読み切る力はさすがに東大生にはある)。Aさんのホームページは、その教材をダウンロードするためのものだったのです。あの、入ったとたんに天狗になって、東大の先生をもバカにし始める東大生も、Aさんだけは、例外なく「A先生」と「先生」つきで呼んでいました。あちこちに「神」とも「仏」とも書いてありました。最近では、他大学の学生もA先生の教材にお世話になっているようです。確かにAさんのホームページは、東大の学生しかダウンロードできないわけではありません。いまやAさんは、すべての理系の学生を救う阿弥陀如来となられました。

考えてみると、Aさんはかなり優秀な人です。東大に入り、東大数理(当時、どう呼んだかは知りませんが)の院に入り、博士論文を提出して、母校の東大の助手になった!しかし、なぜかAさんの快進撃はそこで止まりました。結果の出ない「悩める研究者」になってしまったのです。

もしかしたら、現役東大生の皆さんも、Aさんが「研究者の落ちこぼれ」であることは知っているのかもしれません。調べればすぐわかることです。しかし、東大としても、これだけ教養学部生に手厚い助手なら、雇い続けるかいもあります。何しろ皆さん研究でお忙しいですから。

Aさんは、徹底的に親切であるようです。自らが落ちこぼれなので、落ちこぼれの気持ちが分かる人です。また、徹底的に謙虚です。東大には進振り(進学振り分け)と言って、教養の成績で進める専門が決まる仕組みになっていますが、そういうところで決して学生を不利にはしませんし。「神」であり「仏」です。

このAさんの人生、うまい映画監督がいれば、映画化できそうですよね?不遇な数学者の、奇跡的な生き残り方。私と違って、最後は「神」「仏」になるのですから、ハッピーエンドになっていますし。

しかし、最近、この星くず算数・数学教室の宣伝をやるようになって気付いたことがあるのです。A先生って、今どきの東大生から(他大学生からも)、「本気で尊敬されているのではないか」ということです。これはある意味で「絶望」ですね。

Aさんは、学問的には、「結果の出ない研究者の落ちこぼれ」と評価できなくてはならないのですよ。今どきの東大生は、「わかりやすい塾講師」と同じ感覚で、A先生を本気で尊敬しているかのようなのですね。皆さん、そこまで来ても「受験第一主義」から抜け出せないのですか…。なかなか学問の世界も先が暗いですねえ…。

こんな時代にこの「星くず算数・数学教室」が流行るのかどうかはわからないのですが、本格的な学問を学びたいかたにはおすすめですよ。個人指導ですから、どれだけやさしい(初歩的な)内容でも対応いたします。いわゆるギフテッドのお子様も歓迎です。まずは無料相談からどうぞ。

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