無限級数の和の性質(教科書が証明をとばしているところ)

高校の教科書「数学Ⅲ」で、以下のような記述があります。
29ページで学んだ数列の極限の性質から、無限級数について、次の性質が成り立つ。
無限級数の和の性質
${\sum_{n=1}^{\infty}a_n}$、${\sum_{n=1}^{\infty}b_n}$が収束する無限級数で、${\sum_{n=1}^{\infty}a_n=S}$、${\sum_{n=1}^{\infty}b_n=T}$とするとき、無限級数${\sum_{n=1}^{\infty}(ka_n+lb_n)}$は収束して
$${\sum_{n=1}^{\infty}(ka_n+lb_n)=kS+lT}$$
ただし、${k}$、${l}$は定数
このように書いてあるわけです。証明は略されています。
「29ページで学んだ数列の極限の性質」で、ここで使うものを書いておきます。
数列${\{a_n\}}$、${\{b_n\}}$が収束して、${\lim_{n\to \infty}a_n=\alpha}$、${\lim_{n\to\infty}b_n=\beta}$とする。
$${\lim_{n\to\infty}(ka_n+lb_n)=k\alpha+l\beta}$$
ただし、${k}$、${l}$は定数
大学院のセミナーで必ず言われるのは、教科書または論文でこのような記述があるとき、すなわち証明がとばされているところがあったときは、必ずうめてくるべしということです。しかし、この高校の教科書の記述では、多くの先生はこれの証明をしないと思いますし、高校生もしないと思います。さらには大学入試で問われることもまずないと思いますが、その理由はこの記事の最後で述べることにし、とりあえず以下ではこの部分の証明を高校流で書いてみたいと思います。こういうことを考えるのがお好きなかたには、以下に私が書くことを読まず、取り組んでみられることをおすすめします。では、書きますね。
${\sum_{n=1}^{\infty}a_n}$は収束する無限級数なので、第${n}$項までの部分和を${S_n}$とすると、${S_n=a_1+a_2+\cdots+a_n}$であって、数列${\{S_n\}}$が収束する。すなわち、
$${\lim_{n\to\infty}S_n=S}$$
同様にして、${\sum_{n=1}^{\infty}b_n}$の部分和を${T_n=b_1+b_2+\cdots+b_n}$とすると、数列${\{T_n\}}$が収束する。すなわち、
$${\lim_{n\to\infty}T_n=T}$$
P29の性質から、
$${\lim_{n\to\infty}(kS_n+lT_n)=kS+lT}$$
ここで、有限の和は足す順番を変えてもよい性質から、以下が成り立つ。
$${(ka_1+lb_1)+(ka_2+lb_2)+\cdots+(ka_n+lb_n)=k(a_1+a_2+\cdots+a_n)+l(b_1+b_2+\cdots+b_n)=kS_n+lT_n}$$
これより、数列${\{kS_n+lT_n\}}$が収束する。${kS+lT}$に収束する。
すなわち
$${\lim_{n\to\infty}\{(ka_1+lb_1)+(ka_2+lb_2)+\cdots+(ka_n+lb_n)\}=kS+lT}$$
ここで、${(ka_1+lb_1)+(ka_2+lb_2)+\cdots+(ka_n+lb_n)}$というのは、無限級数${(ka_1+lb_1)+(ka_2+lb_2)+\cdots+(ka_n+lb_n)+\cdots}$の第${n}$項までの部分和であるから、無限級数${\sum_{n=1}^{\infty}(ka_n+lb_n)}$は収束して、
$${\sum_{n=1}^{\infty}(ka_n+lb_n)=kS+lT}$$
いかがでしたでしょうか。これでいいですよね?
さて、これが教科書で証明が略されている理由を考えますと、やはり29ページの性質が、「高校生直感」に頼ったものだからでしょう。ここだけ厳密にやってもあまり意味がないと言いますか。大学の先生が大学入試に出したりしないであろうことも同じ理由と考えられまして、こういうことは大学1年生になってから、数列の極限を大学流で学んで取り組んで欲しいと思っているからではないかと思われます。ともあれ、高校生までの知識でやるならおそらくこうなりますので、これはこれでなかなかおもしろいと思ってブログ記事にした次第です。数式ばかりで読むのが大変でごめんなさいね。私も書くのが大変でした。ではまた!