空間認識と論理性(4次元の世界を考える中学生の生徒さん)

また、当教室での授業の様子のご紹介をいたしますね。ご本人と親御さんの許可はいただいております。

中学生の生徒さんです。半年くらい前にご入門なさいました。当初は、中学3年生の「先取り勉強」を希望なさっていました。お互いに中学3年生の検定教科書を買い、勉強を始めました。

ところが、初回の授業で、生徒さんの手元に、まだ教科書が届かなかったのでした。やむを得ず、私は、大学院の仲間が研究していたハイパープレインアレンジメントと言われる分野の、初歩的な課題を出しました。4枚の平面で空間は最大でいくつの部分に分割されますかと。(これは、${n}$枚のときに漸化式を立てて解く問いとなり、私は中高の教員だった時代に定期テストで出したものです。ずっとのちに、大学入試で出て有名になった問いらしいですが。)

その生徒さんは、その授業のあいだ、ずっと考え続け、ついに結論に達しました。達したのみならず、その4枚の平面の鳥瞰図も描けました。これには驚きました。私も見たことのない鳥瞰図だったのです。その生徒さんは、高い空間認識能力をお持ちなのでした。それがよくわかりました。

間もなく、中学3年の教科書が届きました。われわれは「相似」から学び始めました。しかし、だんだん壁にぶつかり始めました。その生徒さんは、見た目が当たり前だと「当たり前」だと思ってしまわれるようでした。中学の教科書は、その1年前の中学2年生の「三角形の合同条件」(とそれを使った2つの三角形が合同であることの証明をすること)あたりから、「論理的に考える」ことを読者に要求しているように思えます。その生徒さんは、論理には弱いところがあると思われました。われわれは考えました。「方向性を考える会」を行いました。(このように、方向性に疑問を感じた場合には「方向性を考える会」という無料相談を行っております。「ちょっと違うな」と思われたかたには、無料でご相談に乗ります。)そこで、この生徒さんには、私も中学のころに考えていた「2次元で正方形、3次元で立方体と言われる図形は、4次元ではどういう形をしているのだろうか」という問いを考えていただくことになりました。これは、その生徒さんの、高い空間認識能力と、論理的に少し弱いところがあることを考慮しての考えでした。高次元の図形は、空間認識能力だけではなく、論理性がないと「見え」ません。それでご提案したのでした。その生徒さんは、やる気に満ちて応答してくださいました。それでご一緒に4次元について、おもに私が中学生のころ考えていたことを考え始めました。

まずは、先述の「4次元における立方体」についてです。いくつ頂点があり、いくつ辺があり、いくつ面があるのか。まずその生徒さんは、類推で考え始められました。低次元の図形から、類推でわかることがあります。しかし、それでは論理的に考えたことになりません。しかしながら、その生徒さんは、いい意味でとても執念深いのでした。長く考えるうちに、だんだん、4次元の図形が見えるようになっていかれたようでした。4次元の立方体については、概形もかけました。いまもいくつかの懸案事項が残っていますが、だいぶ見えて来たようです。

同様に、2次元で正三角形、3次元で正四面体と言われる図形は、4次元でどういう形をしているのかという問いについても、考察を進めることができて来ました。やはり最初は類推でしたが、だんだん論理的になっていきました。いまは、論理と類推のあいだくらいでずっと考えておられます。私も自分が中学生だったころのことを思い出します。「見えないのだけれど、考えれば、ある」というのは、高次元の図形を考える楽しみだと思います。

最近、新しい課題として、4次元空間内における2直線の位置関係について、考えていただきました。まだこの分野は手つかずになっておりますが、引き続き、考えていただくことになっています。まだ私も出していない話題がほかにもいろいろあります。これからも楽しみな生徒さんです。

こういうのは、学校の教科書には載っておりませんし(ただし大学の数学科に行くと「常識」だったりしますが)、高校受験の役に立つこともないのでしょうが、そういうのと関係なく、趣味として自分の才能(かもしれないもの)の開花にチャレンジすることができるという面があります。その生徒さんの親御さんも、とても協力的で、理解のある親御さんです。引き続き、ご一緒に高次元の図形を考えて参りたいと思います。

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