間違えて女湯に入ってしまった話

四半世紀前の、学部4年生のころの話です。そのころの私は睡眠障害もなく、よくユースホステルのひとり旅で国内旅行を楽しんでいました。八幡平(はちまんたい)に行きました。そこのユースホステルには、賢いわんちゃんがおられました。ユースホステルに着いた私にしきりと吠えるのです。ご主人がご不在だったのです。そのうち、そのわんちゃんは申し訳なさそうに「くーん」というようになりました。どうやら私がユースホステルに泊まろうとしている客であることを認識したのです。「主人はまだ帰っていないのです。すみません」という調子になりました。車が通るたびにわんちゃんはしきりと道のほうを見ています。ご主人の車が到着したときには「わんわんわん。お客さんが来てるよ!」とご主人に言っていました。あとからおかみさんに「賢いお犬さんですね」と申し上げると「飼い主に似ずにね」とおっしゃっておられました。

その日、そのユースホステルには、あとひとりのお客さんしか泊まっていませんでした。同じく学部4年生で、大学院に進もうとしている女子学生でした。(どうやら京都大学の院に進もうとしているようでした。)その学生さんも、ユースホステルのひとり旅で、東北旅行に来ているところでした。ご一緒に近くの沼を見に行ったり、ご一緒に夕飯をいただき、おかみさんが出してくださった梅酒ゼリーなどご一緒に食べたことを思い出します。

私は風呂に入ろうとしました。あとから考えるとそこは女湯だったのですが、そうとは気づかず、中に入りました。誰もいませんでした。私は脱衣所でゆっくり服を脱ぎ、中に入りました。誰も入っていませんでした。私はゆっくり体を洗い、ゆっくり湯舟につかりましたが、その間も、誰も入って来ませんでした。そのまま風呂からあがって出て来ました。そこが女湯であることはまったく気づきませんでした。

翌日、その女子学生さんとご一緒に、近くの湿原を回り、途中でお別れをしました。私はひとりでいろいろな景色など眺め、一日中、歩き回って同じユースホステルにまた泊まりました。それで、二泊目にして、ゆうべ入った風呂は女湯であることがわかったのです。(ときどき女湯と男湯を交代にする宿があることは知っていますが、そこはそうではなく、女湯は女湯で固定でした。)ぞっとしました。例の彼女は、ゆうべは私より早く入浴していたのでした。

この話は、あまりに恐ろしくて、その後、1年近く、誰にも言えませんでした。はじめて言ったのは1年近くあとの、教会学校キャンプの下見のときでした。同行したある同年代の女性が受けておられましたが、この話が冗談ですむようになるのに1年くらいの年月を必要としたのです。

その女子学生さんとは、その後も写真のやり取りなどをしましたので(いまみたいに携帯電話などほとんどない時代です。インターネットもほとんどない)、何度かやり取りをしました。その学生さんは、八幡平だけ行った私と違って、盛岡で冷麺を食べたり、いろいろ東北を回っていたようですが、いまどうしておられるでしょうね。四半世紀前の話でした。

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