2001年1月に東大数理に提出した修士論文をまとめた論文、一応書けました。概要を記します。

私は50 歳の塾講師です。2001 年1 月に、東大数理に修士論文([F])を提出した直後に大きな病気となり、その修士論文は出版されることなく数年後に単位取得退学しました。
紆余曲折を経ましたが、昨年末から、再びその修士論文を出版しようとしています。今年3月には、当時の指導教官の先生と二十年ぶりにつながり直し、その修士論文はいまだに出版する価値があると知りました。
内容については以下です。
曲面のキルト分解は、中村博昭先生とL.Schnepsの考えたもので、以下の図にありますように、曲面のパンツ分解に、さらに「ぬい目」をつけたようなものです。

中村先生は、以下のようにして、曲面のキルト分解のなす亜群の表示を求められました。
中村先生は、extended Hatcher complexというものを定義されました。2次元のセル複体で、曲面のキルト分解を頂点とし、3種類のキルト分解の間のmoveを1-cellとし、6種類の2-cellがあります。これでこの複体は連結かつ単連結になります。
この定理の中村先生と別な証明をしました。なお、この定理は、中村先生は1999年6月に東大のトポロジー火曜セミナーでお話しになりましたが(私はM1でした)、未出版かもしれません(少なくとも2006年の時点で出版されていなかった模様です)。
次に、Funar-Gelca、Bakalov-Kirillovはそれぞれ、曲面上のある構造を頂点とする2-cell complexが連結かつ単連結であるという定理を主張しています。その構造は、曲面のキルト分解の片面に色をぬったようなものです。そこで、曲面の色付きキルト分解というものを考えました。以下の図のように、キルト分解の片面に色をぬったものです。隣り合うキルトの色は一致していなくてはなりません。

以下の図のように、各パンツに「Yの字」を埋め込んだものとも考えられます。

これを頂点とし、4種類のmoveを1-cellとし、8種類の2-cellがある2-cell complexを作ります(colored extended Hatcher complex)。これが連結かつ単連結であることを示しました。
Funar-Gelca、Bakalov-Kirillovの複体を単純化したものと見なせるため、Funar-Gelca、Bakalov-Kirillovと似た結果になることが期待されます。実際、似た結果となりますが、Funar-Gelca、Bakalov-Kirillovの複体にはない2-cellが、私の複体にはあります。
これらの研究の動機については、数論的な興味(Belyi の結果による)、また、位相的量子場の理論(topological quantum field theory, TQFT)などがあります。
ここまでが第一部です。この論文の第二部は、extended Hatcher complexと、colored extended Hatcher complexのそれぞれに、Torelli群が自由に作用することを言います。この定理は、Torelli群がtorsion-freeであることから証明されますが、もともと、後者の複体にTorelli群がfreeに作用することは、Torelli群がtorsion-freeであることを使わずにelementaryに証明していました。その証明は長く紛失したと思っていましたが、このたび、そのもとの証明が書いてあるノートを、古い段ボール箱から見つけました。その証明は、別の論文として準備しています。
この論文は長くpreprint であるわけですが、2004 年に、[I] に引用されています。
先日、この論文は一応書けました。よくチェックしたのち、プレプリントサーバに出したいと思います。
References
[F] H.Fuchizawa, Quilt decompositions of surfaces and Torelli group action on the extended
Hatcher complex, preprint
[I] T.Ichikawa, Teichmuller Groupoids, and Monodromy in Conformal Field Theory, Commun.
Math. Phys. 246, 1-18 (2004)
