30年たってようやくよさがわかるもの

はじめて接してから、30年がたって、よさがわかるものがあります。私はクラシック音楽が好きなので、以下にクラシック音楽で3つの例を挙げますが、これは音楽に限らない気がいたします。

ひとつは、マーラーの交響曲第8番です。18歳のときにストコフスキー指揮のCDを買いました。(いま47歳ですから29年前です。)まったくよさがわかりませんでした。ちんぷんかんぷんの1時間半が続きます。何度も聴き直しました。でも、どうしてもちんぷんかんぷんなのです。この曲のよさは永遠にわからないと思いました。

じつは、マーラーの他の曲のよさがわかるのにもそれなりの時間を要しました。周囲の人間が「マーラーはいい」「マーラーやりたい」と言っているのを聞いて「マーラーのよさなどわかってたまるか」と思っていたものです。ある日、マーラーの交響曲第9番を聴いて「この曲のすべてに共感できる!」と思ってしまいました。それ以来、マーラーの交響曲は、7番が好きになり、10番のクック版というものも好きになり、つぎつぎに好きになっていったのですが、この「第8番」は、なかなかよさがわからなかったのです。私が「第8番」のよさに目覚めたのはいつか…。ここ2、3年だと思います。はじめて聴いてから30年近い年月を要したのです。いまもそのCDを喜んで聴いています。いまはよさがわかって聴いています。大好きな曲になりました。

(最新の録音で聴きたい場合は、京都市交響楽団のYouTubeチャンネルにある広上淳一さん指揮の演奏をよく聴きます。)

2番目です。エルガーの交響曲第2番です。これは長くCDを持っていませんでしたが、やはりかなり若いころから、図書館でCDを借りて、カセットテープに入れて何度も聴いたものです。友人にCDを借りたこともあります。しかし、何度、聴いても、よさがわからないのです。これのよさがわかったのもここ2、3年でしょう。いまは大好きな曲になり、おもにYouTubeでハーディング指揮かヴァシリー・ペトレンコ指揮の演奏で楽しんでいます。これもよさがわかるのに30年近い年月がかかっています。

最後です。プーランクのヴァイオリン・ソナタです。これは友人がプーランクのクラリネット・ソナタをやることになったときに、買ったCDに入っていたものです。クラリネット・ソナタはすぐに好きになったのですが、ヴァイオリン・ソナタのよさは長いことわかりませんでした。これのよさがわかったのもここ何年かでしょう。いまは大好きです。

というわけで、はじめて聴いてから30年が経過してよさのわかる音楽があるのです。ですから、いまでも30年くらい前に買ったCDで、さっぱりよさがわからない曲も、今後はどうなるかわからないと思っています。

これは音楽に限らないと思います。私は若いころから聖書を読んでいますが、この半年くらいで「マルコによる福音書」のよさが急にわかってきつつあります。ついゆうべも新たな発見をしたところで、現在進行形でマルコによる福音書のよさがわかってきつつあります。

小説でも、あるいは学問でも、若いころよさのわからなかったものが、いつかよさがわかるときが来る場合があります。それは私の経験では、先述のマーラー9番のように瞬間的に来る場合もあれば、じわじわよさがわかってくる場合もあります。芸術や文化には、気長につきあったほうがいいですねえ!

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