偶置換、奇置換

(これは数学の専門的な記事です。それでもよい方はどうぞお読みください。)

${1}$から${n}$までの${n}$個の数を並べ替える操作を、${n}$文字の置換といいます。${n}$文字の置換は全部で${n!}$個あります。${n}$文字の置換で、2つの文字を交換し、他の${n-2}$文字を動かさないものを互換といいます。

以下が言えます。(誰の定理でしょう。すごいことが言えるものです。)

定理 任意の置換は、互換の積で書ける。いま、ある置換が、二種類の互換の積で書けたとする。そのときの互換の個数は、片方が偶数ならもう片方も偶数で、片方が奇数ならもう片方も奇数である。

つまり、ある置換を互換の積で書くとき、その互換の個数が偶数か奇数かは、与えられた置換で決まっているのです。

この定理の証明を書きます。

「任意の置換は、互換の積で書ける」という部分は、隣同士の入れ替えを繰り返せば、有限回の操作で、望みの置換にすることができるところから、よいです。

${n}$変数${x_1}$、${x_2}$、・・・、${x_n}$の多項式で、以下のものを考えます。

$${\Delta (x_1,x_2,\cdots,x_n)=\Pi_{i<j} (x_i-x_j) }$$

右辺は、添え字の組${(i,j)}$のうち、${i<j}$であるようなものすべてで、${(x_i-x_j)}$の積をとったものです。たとえば、${n=3}$ならば、${(x_1-x_2)(x_1-x_3)(x_2-x_3)}$という3次式になります。これを、${n}$変数の差積といいます。

${n}$文字の置換${\sigma}$と、${n}$変数多項式${f(x_1,x_2,\cdots,x_n)}$に対して、${n}$変数多項式${f^{\sigma}}$を以下で定義します。

$${f^{\sigma}(x_1,x_2,\cdots,x_n)=f(x_{\sigma(1)},x_{\sigma(2)},\cdots,x_{\sigma(n)})}$$

つまり、添え字に置換${\sigma}$を作用させて新しい多項式を作るのです。

差積に${\sigma}$を作用させると、差積の定義から、差積になるか、差積にマイナスをつけたものになります。つまり以下です。

$${\Delta^{\sigma}(x_1,x_2,\cdots,x_n)=\pm \Delta (x_1,x_2,\cdots,x_n)}$$

とくに、${\tau}$が互換であるとすると以下が言えます。

$${\Delta^{\tau}(x_1,x_2,\cdots,x_n)=- \Delta (x_1,x_2,\cdots,x_n)}$$

理由を述べます。${\tau(p)=q}$、${\tau(q)=p}$、${p<q}$とし、それ以外の${n-2}$文字が動かないとしますと、${x_p-x_q}$が${\tau}$の作用で${x_q-x_p}$になるのでマイナスがつき、それ以外の文字${r}$について、${x_p-x_r}$(あるいは${x_r-x_p}$)は、${x_q-x_r}$(あるいは${x_r-x_q}$)となり、${x_q-x_r}$(あるいは${x_r-x_q}$)は、${x_p-x_r}$(あるいは${x_r-x_p}$)となって、全体的に符号に影響を及ぼさないため、マイナスがつくわけです。

さて、置換${\sigma}$が次のような二通りの互換の積に表されたとします。

$${\sigma=\tau_1 \tau_2\cdots\tau_k=\rho_1 \rho_2\cdots\rho_l}$$

これを差積に作用させます。

$${\Delta^{\sigma}(x_1,x_2,\cdots,x_n)=(-1)^k\Delta(x_1,x_2,\cdots,x_n)}$$

$${=(-1)^l\Delta(x_1,x_2,\cdots,x_n)}$$

したがって、${(-1)^k=(-1)^l}$となり、${k}$が偶数のとき、${l}$は偶数であり、${k}$が奇数のとき、${l}$は奇数です。証明終わり。

偶数個の互換の積で表される置換を偶置換、奇数個の互換の積で表される置換を奇置換と言います。

これが言えるから行列式が定義できるのであり、「向き」も定義できるわけです。

このたび(昨年10月からしている線形代数の復習で)、このことの証明は、斎藤正彦『線形代数入門』(32年前に自分が使った教科書)で学び直し、斎藤先生のこの明解な証明に感動したわけですが、よく思い出してみますと以下のことがあります。幼少の私は、この定理の前半「任意の置換は有限個の互換の積でかける」は気づいていてよく色鉛筆の並べ替えで遊んでいましたが、その交換の回数の偶奇に決まりがあることには気づいていませんでした。あみだくじについてもいろいろ考えていましたが、やはりその「よこぼう」の本数の偶奇の決まりには気づいていません。その証明には今回の「差積」のような多項式がどうしてもいるのでしょうか。いつか、「自伝風の読み物」の補遺で述べたいと思います。本日は、この定理の証明の紹介でした。

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