「一緒に考えればいいではないですか」

2年以上前、ツイッターをやっていたころの話です。ある、中学の数学を教えている若い男性と相互フォローになりました。その男性は、中学の数学がご専門ではありません。先生でもありませんでした。福祉の人だったかな…。とにかく、数学が専門でない中、中学生に数学を教えておいででした。自らも学びながらです。そして、そのとき、その男性は、育休を取っておいででした。それで、直接、子どもたちに教えられないので、YouTubeで授業をしておいででした。

ためしに見てみますと、数学的には、ちょくちょく間違えています。「垂直二等分線」なども間違えていたように記憶しています。再生回数も、10回とちょっとでした。それでもがんばっておいででした。

ツイッターには「質問箱」というものがありました。匿名で質問ができるのです。その男性も、質問箱を設置しておられました。私はちょっと意地悪な質問をしてみたくなりました。

私が中学の数学を教えていたのは、おもに2015年度です。最も苦労したのが、「空間図形」でした。ちょっと中学生には論理的な説明ができない内容がつぎつぎと教科書に現れました。いや、中学生が相手でなくても、直観で説明せねばならないことかもしれません。たとえば、「四面体や五面体は存在するが、三面体というものは存在しないこと」とか「1直線上にない3点を通る平面は、ただひとつ存在する」等です。とくに後者は、賢い生徒さんほど納得できない様子でした。中学教師の皆さんは、こういう場面をどうやって乗り切っておられるのか…。「コワモテ」で乗り切る先生もおいででしょう。また、前者の質問もまともな答えがなく、どうしても「三面体は存在しない」ことが納得できない生徒さんはいるのでした。これらは、平面で言えば「二角形は存在しない」とか「2点を通る直線はただ1つ存在する」というような命題で、これらは小学生でも直観的に明らかなのです。そこで、例の男性に、質問箱で、意地悪な質問をしました。「三面体というものが存在しないということを、どうやって中学生に説得的に説明しますか?」という問いでした。

その答えは、「どうして説得する必要があるのですか。中学生と一緒に考えればいいではないですか」というものでした。完全に1本取られました。

これは、いま考えれば「星くず算数・数学教室」の基本理念である「問題解決型ではなく伴走型」ということそのものです。

非常に優秀な数学者で、私も何度も集中講義でお世話になった、深谷賢治先生というかたがおられます。私が学生時代は京都大学教授でした。その深谷先生の若いころの著書で『数学者の視点』(数学者の視点(最新刊)(岩波科学ライブラリー) | 深谷賢治 | 無料試し読みなら漫画(マンガ)・電子書籍のコミックシーモア (cmoa.jp))というものがあります。四半世紀は前の書物でしょう。当時は、フェルマー予想は肯定的に解決されていて、ポアンカレ予想は未解決でした。深谷先生は、フィールズ賞の授賞に関してまで、世の中が「問題解決型」に向かっていることを憂いておられました。ある数学とは関係のないかたが、最近「問題解決型というのは、現代の呪いではないか。近代資本主義がまき散らしたものではないか」とおっしゃっていました。そうかもしれません。

その、中学生に数学を教える男性には、再会できるのでしょうか。あの姿勢は、まさに伴走型でした。星くず算数・数学教室の見習うべきありかたです。

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