名を正す。以下の言葉の意味は何か。「円の面積を求める」「方程式を解く」「2つの角が等しい」(3)「2つの角が等しい」

「名を正す」とは、論語に出てくる言葉で、物事を本来の名前で呼ぶことであると私は捉えています。このたびは、3回のシリーズで「円の面積を求める」「方程式を解く」「2つの角が等しい」という、いずれも学校教育の数学でよく目にする表現について、ブログを書いてみたいと思いました。最終回の本日は「2つの角が等しい」です。(前回、前々回のブログにつきましては、最後にリンクをおはりいたしますね。)
「角」というものを最初に習うのは、小学3年生の算数の教科書です。以下のように書いてあります。
「1つのちょう点から出ている2つの辺がつくる形を角といいます」。
そのつぎに、こう書いてあります。
「三角形には、3つの角があります」。
3つの角があるから三角形というのではないのかい・・・と思われたかもしれませんが、三角形は、小学2年生の教科書で、以下のように習っています。
「3本の直線でかこまれている形を三角形といいます」。
ですから、三角形という名前も「三辺形」という名前のほうがいいのかもしれませんが、とにかく三角形の定義はこうなっていますから、「三角形には、3つの角があります」という主張には意味があります。
そして、その次に、以下のように書いてあります。
「角をつくっている辺の開きぐあいを、角の大きさといいます」。
この段階で、まだ「角の大きさ」が数値化され得ることは習いません。それは4年生になってから、分度器を持って角の大きさを測り、角の大きさを角度ともいうことを習うときになります。(そして、20°と30°をあわせると、足し算となって50°となることも習います。これはたとえば三角関数の加法定理を成立させている性質です。)
以下は「さすが検定教科書」と思うようなことなのですが、教科書では「角Aと角Bが等しい」というような書き方はしません。「角Aの大きさと、角Bの大きさが等しい」と書きます。同様に「辺ABと辺BCが等しい」という書き方もしません。「辺ABの長さと、辺BCの長さが等しい」というふうに書いてあります。さすがですね。
ところで、検定教科書の書き方で、私の気になるものがあります。円周率の説明がしてあるところです。「どんな大きさの円でも、円周÷直径は同じ数になります。この数を円周率と言います」というところです。なぜ「円周÷直径」と書くのであろうか。「円周の長さ÷直径の長さ」ではないでしょうか。円周を直径で割ることはできないでしょうに・・・。ここを読むと私は少し気持ち悪い感じがします。皆さんはいかがお感じでしょうか?
それで、角の大きさの話に戻ります。中学2年生の教科書には、たとえば以下のように書いてあります。「2つの角が等しい三角形は、二等辺三角形である」。「2つの角が等しい」と書いてあります。「1つのちょう点から出ている2つの辺がつくる形を角といいます」と習った小学3年生からは理解不能な記述ではないでしょうか。「角をつくっている辺の開きぐあいを、角の大きさといいます」と習うわけですから、「2つの角の大きさが等しい」という言いかたなら理解できるとして、「2つの角が等しい」という言いかたは奇妙に感じられると思われます。このへんは、第1回で触れた「円」の定義とは逆に、「角」と「角の大きさ(角度)」は、だんだん学年があがるごとに、境目があいまいになっていくのです。まぎらわしくなければ、それでいいのだと思います。
ところで、先ほどの、小学5年生の教科書の円周率の定義「円周÷直径」は、どうしてそういう書き方になっているのか、私なりの仮説があります。かつて東大の入試で、円周率が3.05よりも大きいことを証明せよ、という問いが出たらしいことは知っております。これは「円周率とはなんですか」と聞いているようなものです。つまり、小学校の教科書の執筆者も、円周率の定義がきちんと言えないのではないか。なにしろ、円周率の定義がはっきり言えたら東大に受かるくらいなのです。
多くの人は、円の直径の長さと円周の長さは比例しており、その比例定数が円周率であることは(なんとなく)知っていると思います。しかし、正面きって「円周率とはなんですか。説明してください」と言われて、案外、言えないのではないでしょうか。それどころか、「角とはなんですか。説明してください」と言われて、先ほどの小学3年生の教科書に書いてある「角」の定義「1つのちょう点から出ている2つの辺がつくる形」というのも、案外、言えないのではないでしょうか。
(素数の定義が言えた人が京大に合格した例も知っていることをいま思い出しましたね。)
「${\tan 45^{\circ}}$はいくつですか」と聞かれて「${1}$です」と答えられる人でも「タンジェントとはなんですか。説明してください」と言われて説明できるとは限らないことに気づいて参りました。「部分集合とはなんですか」「関数とはなんですか」「面積とはなんですか」「証明するとはどういうことですか」・・・。論語に出てくる「名を正す」という概念の大切さを思います。今回は、3回のシリーズでブログ記事を連載して参りました。いかがでしたでしょうか。ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
第1回、第2回は以下です。


