本当の「お育ちがいい人」ランパルの自伝を読んで

最近、「お育ちがいい」という言葉の真の意味を知ってから、以前より持っている、20世紀の大フルート奏者ランパルの自伝『音楽 わが愛』を読み直してみました。おもしろくて一気に読了しました。どういうのを「お育ちがいい」というかをいまからご説明申し上げたいと思います。「大船に乗った」親から愛されて育った人のことなのです。

ランパルの父親は極めて立派でした。ひとつだけエピソードを挙げます。ランパルが14歳くらいのころ、父親と釣りに行ったそうです。舟に荷を積んでいるとき、父親は海中に鍵を落としたそうですが、父親はそのまま作業を続けたそうです。もちろんもう鍵は拾えません。一緒に来ていた友達は、ランパルの父がまばたきひとつしなかったことが信じられなかったそうです。ランパルの父は「何が大事なんだ。そんなことをしてたら一日が無駄になる」と言ったとのことです。

これに続くランパル自身の数十年後のエピソードは、ロサンゼルスの空港でフルートの入ったかばんを盗まれたときの話です。「どろぼう、どろぼう」とランパルは叫びましたが、見つかりませんでした。飛行機はすぐに出ることになっており、ランパルは翌日、ボストンでコンサートがありました。とりあえずボストンのフルート・メーカーであるヘインズの社長に電話し、楽器を貸してもらえるように手配しました。あとは、ゆっくり飛行機の旅を楽しみ、ボストンについてからは予定通りパーティーに参加し、ホテルでゆっくり眠ったそうです。深夜に電話が鳴り、フルートが見つかったとのこと。ランパルはボストンではそのヘインズのフルートで演奏会をやりました。「父は私のことをよくやったと思っただろう」とランパルは書いています。

こういう「お育ちのいい」人はどういう人になるか。この本には、ひたすら、世界中の人にランパルがお世話になったことが書いてあります。ものすごくたくさんの人に頼り、ものすごくたくさんの人に助けられて、ランパルは自立していたのです。「人に頼ることを自立という」。その絶好の実例がこのランパルでした。この本に出てくるたくさんのランパルのお友だちの話は、ランパルがたくさん助けてもらったことの感謝として書いてあるのです。ひたすら「おかげさまです」ということです。「おかげさま」とはこういうときに使う言葉でした。

再びランパルの父親の教えです。人生には運の要素がありますが、幸運はなるべくキャッチし、不運はなるべく避ける、という教えです。幸運が来たときに、いつでもキャッチできるようにしておく。なるほどと思わされます。

また、ランパルの「才能」に関する考えです。才能は天から与えられたもので、不平等の法則にあります。しかし、われわれは幸か不幸か生産ラインから出てくる車ではない。われわれの体は基本的に同じかもしれないが、違った行動をする。これが世界をおもしろくするのだというのがランパルの考えだそうです。これも、なるほどと思わされます。極めておもしろいです。

大船に乗って世界中でいい球を投げ続けたランパルは、60歳のとき、世界中でお祝いにつぐお祝いで迎えられました。いい球がちゃんと返って来たのです。

こういうのが「ランパルはお育ちがいい」ということでした。本日は以上です!

※ランパルの自伝『音楽 わが愛』は、Amazonやメルカリではとうてい入手できないように思えると思いますが、じつは全国のムラマツ楽器にかなり在庫があり、ムラマツに電話すると新品が定価で買えます。

Ref.  ジャン=ピエール・ランパル著 吉田雅夫訳 『音楽 わが愛』(シンフォニア)

(ブログのサムネイルに本の表紙を使用することは、シンフォニアさんの許可を得ました。)

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