朝比奈隆さんの指揮するブルックナーの交響曲第8番を聴いた(1997年3月6日)

これはまたクラシック音楽オタク話の記事ですが、満を持して(?)、伝説の演奏会を聴いた話を書きますね。1997年3月6日に、朝比奈隆さんの指揮で、ブルックナーの交響曲第8番を聴いたのでした。N響(NHK交響楽団)の定期演奏会でした。渋谷のNHKホールです。
私が大学生になったのは、1994年です。入学と同時に東大オケに入りました。東大オケは2年と1か月でやめてしまいました。1996年4月にはやめてしまったのです。翌1996年5月には、いま考えると発達障害の二次障害である統合失調症を発症して学業もストップし、1996年度は、まるまる学業と音楽を休んだのでした。その時期の最後のころのことになります。
この演奏会は、東大オケのある友人が誘ってくれたのですが、私は長いこと、ブルックナーのよさがわかっていませんでした。東大オケの仲間で、ブルックナーの好きな人はけっこういましたが、私は「ブルックナーのよさなどわかってたまるか!」とさえ思っていたものです。このとき誘ってくれた友人は、私と違って、高校時代からブルックナーのよさがわかっていた友人でした。彼は高校時代、博識な音楽の先生と出会っていて、その先生の影響で、ブルックナーも含む、いろいろな音楽に親しんでいたのでした。
この演奏会よりも前、彼は私にいろいろブルックナーのよさをわからせようとしてくれました。決定的だったものがあります。彼が私のために作ってくれたブルックナーの交響曲第8番のカセットテープがあるのです。今回の曲です。ある意味でブルックナーの最高傑作であるとも言えるこの作品の、これまた(当時)最高と考えられる演奏であるカラヤン指揮ベルリン・フィルの1975年録音のレコードから、彼がカセットテープにダビングしてくれたのでした。「最高傑作から入門しよう!」ということだったのでしょう。ブルックナーの交響曲第8番は、4楽章からなりますが、前半2つの楽章よりも、後半2つの楽章のほうが長いため、カセットテープにすると、どうしても、第3楽章の途中でA面からB面に行くことになってしまいます。そこで彼の作ったカセットですが、さすがブルックナーを知り尽くした人物によるカセットであり、第3楽章の、最も音楽的に「切れてもおかしくないところ」でA面からB面に行くようになっていたのです。なんというブルックナー愛にあふれたカセットテープでしょうか!これのおかげもあり、私はブルックナーのよさをじょじょに理解することができるようになっていったのでした。
(少し楽譜を書きますね。以下の箇所で、そのカセットはA面からB面に行きました。)

同じころ、聴いてブルックナーのよさに目覚めていったきっかけとして、この日の指揮者である朝比奈隆さんがシカゴ交響楽団を指揮してブルックナーの交響曲第5番をやったのをテレビで見たこと、また、メータ指揮の(オケは忘れましたが有名な海外のオケの来日公演でした)ブルックナーの8番をラジオで聴いたこと、それから、どこから入手したのか覚えていませんが、ホルスト・シュタイン指揮バンベルク交響楽団のブルックナーの5番のカセットテープを聴いたことなどです。「8番と5番ばかりかい」というところですが、私はおもにこれらの曲によって、ブルックナーのよさに目覚めていきました。本日は、その彼が誘ってくれたN響の定期公演で、ブルックナーの交響曲第8番を生で聴いた話です。このころには私はブルックナーの交響曲第8番の全貌は把握していました。よさがわかったうえで聴けたのはいま考えるとありがたかったです。
もうひとり、東大オケの仲間も誘われていて、3人で聴きました。NHKホールの、学生1,500円の席です。当時のチケットも残っています。「3階 E 自由席」と書かれています。当時は3人とも学生でした。学部3年生、21歳ですね。
当時は、指揮者で言いますと、ヴァントとか、チェリビダッケとか、国内だと今回の朝比奈隆さんなどがブルックナー指揮者として非常に人気がありました。当時はほとんどインターネットがなく、もっぱら皆さんCDで聴いておられた時代です。チェリビダッケは海賊盤だらけだったと記憶しています。私は、朝比奈隆さんの指揮を生で聴いたのはこれが唯一です。当時、朝比奈隆さんは89歳だったことになります。また、私がブルックナーの作品を生で聴いた最初の機会となります。のみならず、いまのところブルックナーの8番を生で聴いた唯一の機会でもあります。私が生で聴いたブルックナーは、これのほか、東大オケの交響曲第6番、ワセオケ(早稲田大学交響楽団)の交響曲第7番、東大オケによるミサ曲第1番、ですべてだと思いますので…。ですから、非常に貴重なものを聴いたのです。
当日の日記を見ますと、そのころがんばっていた、自動車教習所などに行った帰りの夕方に、その友人2人と聴いています。改めて、その日のプログラムは以下です。
ブルックナー 交響曲第8番ハ短調 (ハース版)
朝比奈隆(指揮)
山口裕之(コンサートマスター)
この演奏会には途中休憩がありません、という看板が出ていたことを思い出します。始まるとトイレには行けませんよ、という意味だったのでしょう。
聴いた感想です。すばらしかったです。日記には「やはりいい曲だ」と書かれています。覚えている点を2つだけ、書きます。ひとつは、フルートの故・小出信也さんが「ちょっと調子が悪いのかな?」と思った点です。少なくともフルートという楽器は、調子の悪い日は、小さな音が出せなくなります。小出さんはこの日、終始、小さくてもメゾフォルテくらいの音量で吹いておられました。あまり調子のよい日ではなかったのかもしれませんね。どうしても楽器はその日の調子がありますからやむを得ません。
もうひとつは、第4楽章の以下の箇所で、朝比奈さんは、とてつもないリタルダンドをなさったことです。このような演奏はほかで聴いたことのないものでした。

(第1ヴァイオリンだけ書きましたが、ここはオケ全体がほぼオクターヴユニゾンになっているところです。)
演奏終了後、拍手喝采であり、オーケストラが退場してもなお拍手が続き、指揮者の朝比奈さんだけが舞台に再登場し、お辞儀をなさっていたのを思い出します。
終わって、仲間と感想を言い合いました。みんな、感動したようでした。私が、全体としてはよかったものの、フルートの小出さんは調子の悪い日だった気がする、と申しますと「自分の楽器しか聴いていないのかい」と突っ込まれた覚えがあります。
(小出信也さんの名誉のために付け加えますと、小出さんはとてもうまいフルーティストであられました。どこで手に入れたのか、小出さんのソロを集めたカセットテープを聴いて、感動したことがあります。タファネルの「アンダンテ・パストラールとスケルツェティーノ」とか、ムケの「パンの笛」などが収められたカセットテープだったと思います。)
ともあれ、貴重なものを聴いた機会でした。このあと私は間もなく学業を再開し、ある市民オケに入ってオケ活動も再開することになります。この日は夕食を食べて満足して帰ったと日記に書いてあります。充実した日でした。
