双曲線関数と東大入試の思い出

この記事は、だいぶ「高校数学テクニカル」だと思います。当教室では珍しいタイプの記事ですが(一般には珍しくない記事でしょうが)、よろしければお付き合いください。大学受験を控えた高校生さんは、ご覧になると参考になるかもしれません。数学は頭が痛くなるというかたにはきのうの記事をどうぞ。

私が双曲線関数を習ったのは遅かったです。1998年、学部4年生のとき、双曲幾何を学ぶうえで学びました(大学初年級の微分積分学で習うかたもおいでになるようですね)。以下のような関数です。

$${\sinh x=\frac{e^x-e^{-x}}{2}}$$

$${\cosh x=\frac{e^x+e^{-x}}{2}}$$

(${\sinh}$は「サインハイパボリック」と読みます。「ハイパボリックサイン」と習うかたもおいでになるようです。)

いきなり演習問題を出します。以下の等式を証明してください。

$${\cosh^2 x-\sinh^2 x=1}$$

$${\sinh(x+y)=\sinh x\cosh y+\cosh x\sinh y}$$

$${(\sinh x)^{\prime}=\cosh x}$$

これは、こういう計算に慣れた高校生さんにはちょうどいい難易度の演習問題なのではないかと思います。

ここで少し、受験テクニックを披露します。これは、1998年どころかつい最近、私がSNSでフォローさせていただいている同業者(同業者の皆さんの多くは受験数学を扱っておられます)のおひとりが書いておられたことなのですが、双曲線${x^2-y^2=1}$のパラメータ表示で、${x=\frac{e^t+e^{-t}}{2}}$、${y=\frac{e^t-e^{-t}}{2}}$というのがありますよ、とのことでした。なるほど、この知識は受験で役に立つのか、と思った次第です。

さて、私はこの双曲線関数は、実際に双曲幾何を扱うために学んだのですが、これよりずっと前、大学の教養で以下の議論を習います。三角関数を指数関数で定義する方法です。つぎのように定義します。${i}$は虚数単位です。

$${\sin x=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}}$$

$${\cos x=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2}}$$

(私は大学教員の経験がないので、うれしがって書いている面がなきにしもあらずですよ!(笑))

これのもとになっている式は、以下の等式です。

$${e^{ix}=\cos x+i\sin x}$$

少し脱線しますと、この式で${x=\pi}$としたものが以下の式になります。

$${e^{\pi i}=-1}$$

これは、私が中高の事務員として、学校司書をやらされているとき、やたらと高校生の皆さんに人気のあった本の書名になっていました。これを扱った本でしょうか。私は読んだことがありません。また、中学生に非常に人気のあった本で「博士の愛した数式」という本もありました。私も就職活動をしていた2005年ごろに教会のご婦人からいただいて読みました。しかし、書名のわりに「数式」が出てくるのは、この${e^{\pi i}=-1}$だけなのです。これが博士の愛した数式なのだろうか。とにかく、これが出て来ます。

$${e^{ix}=\cos x+i\sin x}$$

に戻りますね。私がこれをどう納得させられて来たかを書きます。以下は東大教養学部の物理の先生の説明です。

テーラー展開は仮定しますね。

$${e^x=\frac{e^0}{0!}+\frac{e^0}{1!}x+\frac{e^0}{2!}x^2+\frac{e^0}{3!}x^3+\cdots}$$

すなわち$${e^{ix}=\frac{1}{0!}+\frac{1}{1!}ix-\frac{1}{2!}x^2-\frac{1}{3!}ix^3+\cdots}$$

また、$${\cos x=\frac{\cos 0}{0!}-\frac{\sin 0}{1!}x-\frac{\cos 0}{2!}x^2+\frac{\sin 0}{3!}x^3+\cdots}$$

すなわち$${\cos x=\frac{1}{0!}-\frac{1}{2!}x^2+\cdots}$$

また、$${\sin x=\frac{\sin 0}{0!}+\frac{\cos 0}{1!}x-\frac{\sin 0}{2!}x^2-\frac{\cos 0}{3!}x^3+\cdots}$$

すなわち$${i\sin x=\frac{1}{1!}ix-\frac{1}{3!}ix^3+\cdots}$$

そしてその先生は、「無限和を足すときに足す順番を変えるのはほんとはダメですけどね」と言いながら、これらを昇べきの順になるように足して${e^{ix}=\cos x+i\sin x}$を「証明」なさっていたのです。私は納得しました。そして、証明というものは、お互いが納得しさえすればそれでいいのです。当教室をやっていてもそれはとても感じます。

それで、${e^{ix}=\cos x+i\sin x}$を用いて三角関数の定義に参りますね。${e^{-ix}=\cos x-i\sin x}$として、両辺を足しますと、${e^{ix}+e^{-ix}=2\cos x}$となり、

$${\cos x=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2}}$$

となります。同じように、さきほどの2つの式の両辺を引き算しますと、${e^{ix}-e^{-ix}=2i\sin x}$となり、

$${\sin x=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}}$$

となるわけです。これらを三角関数の定義とするわけです。

ここで、「東大入試」の思い出になります。もっとも私が受けたときの話ではなく、同じく1998年のことだと思います。私は統合失調症で1年、休んでおり、同輩が1年早く東大数理の大学院に行っていました。彼が「今年の東大の入試で、三角関数の加法定理の証明が出たらしいよ」と言っていました。私は内心「それで塾業界は『新傾向!』とか言って騒いでいるのでしょ。ばっかみたい」(失礼)と思っていました。まさかそのずっとのち(このとき私は22歳くらいです)、博士課程で取り返しのつかないような統合失調症をやり(それは発達障害の二次障害でした)、博士論文が書けなくなり、やむを得ず中高の教員になって、30歳で、その受験業界に戻ってきてしまうことになるとは思っていなかったものです。だいぶたつのにその東大入試は有名な問題でした。さらに私はダメ教員すぎて事務員にさせられ、ダメ事務員すぎて46歳のときにクビになっていますが、それでこのような教室をほそぼそとやっています。意外すぎる展開ではありますが、この東大入試、おそらく採点していたら、以下のような答案はあったと思います。

すなわち、その東大入試では、まずサインとコサインの定義を書かせ、そして加法定理の証明をさせていたと思います。まずサインとコサインの定義を聞いているのは、それによって証明が異なるからです。サインとコサインの定義で、${\sin x=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}}$と${\cos x=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2}}$を採用し、計算だけで加法定理を証明するのです。さきほど、双曲線関数の場合は演習問題としてしまいましたが、これは有名な東大の過去問ですし、ひとつだけ概略をご覧に入れますね。

$${\sin(x+y)=\frac{e^{i(x+y)}-e^{-i(x+y)}}{2i}}$$

$${\sin x\cos y+\cos x\sin y=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}\cdot\frac{e^{iy}+e^{-iy}}{2}+\frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2}\cdot\frac{e^{iy}-e^{-iy}}{2i}}$$

$${=\frac{e^{i(x+y)}-e^{-i(x+y)}}{2i}}$$

これで証明終わりです。いかがでしょうか。

こう書いた答案はときどきあったのではないかと思うのですよね。東大を受験する高校生さんともなると、これくらいは知っていそうです。東大の先生はどう採点したでしょうか。「よく知っているじゃん」と思って肯定的に採点してくれた可能性も大きいと思いますけどね。このように、主観的な採点には意味があります。マークシート式の採点では測れない、生の人間が書いた解答を見る意味はそこにあると思います。

さて、この${e^{\pi i}=-1}$という式は高校生に大人気ですので、一度、教員時代に、ある理科の教員から以下のような質問を受けました。以下のように聞いてくる生徒さんがいたというのです。

${e^{\pi i}=-1}$の両辺を2乗すると${e^{2\pi i}=1}$となる。この両辺の自然対数をとると${\log e^{2\pi i}=\log 1}$となる。ここから${2\pi i=0}$となってこれは明らかに偽の命題である。どこがおかしいのですか?という疑問です。皆さんはどうお答えになりますか?

これは、まさにこういうことが起きないために、高校までの数学ではこういう議論を実数に限っているわけです。複素数の範囲で対数関数は多価関数ですからね。その先生には「そういう難しいことを言わないで」と言われましたが、そういう難しいことを言わないために高校では扱わないのだ、というふうにしか言えませんでしたね・・。

本日の記事は以上です。長かったですね!また今度!

※大学、大学院では「数学の本には間違いがあって当然だ。その間違いを訂正しつつ読むのが正しい数学の本の読み方」と習ってきたものです。その意味は、もしおおざっぱに読むなら間違いがあっても困らず、精密に読むなら間違いを訂正しつつ読めるからです。本日の私の記事もそうで、きっと間違いはありますが、精密に読むかたにはおのずと間違いが訂正できるだろうと思います!

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