自伝風の読み物 ⑮ 4次元における立方体

4次元のことについて、中学生のころにずいぶん考えましたが、その発端がどうしても思い出せません。思い出すのは、ドラえもんに出てくる「四次元ポケット」ですが、4次元とは、いま住んでいる空間に3つの方向があるのに対し、もうひとつ方向があることであるのを知って、四次元ポケットは4つしか方向がないのに、「もしもボックス」あるいは「どこでもドア」のような3次元的に大きなものがあのように小さなものに入るはずはなかろうと思ってアニメを見ていた記憶がありますので、そのころには4次元というものを認識していたらしいことは思い出されます。
また、家に、「数・形」という図鑑がありました。動物図鑑はぼろぼろになるまで読みましたし、魚の図鑑、鳥の図鑑、昆虫図鑑も同様に何度も読みました。しかしこの「数・形」という図鑑はありがたくない気がする書物でした。数学について、いろいろな話題を子供向けに紹介するという趣向の読み物だったと思うのですが、たとえば、いま考えると方程式の説明がしてあるところも、なんとも言えないあまり嬉しくない気持ちになる書き方なのでした。あるページには、幼少のガウスのエピソードが記されてありました。有名なエピソードかもしれません。算数の授業で先生が、「1から100までの数を足しなさい」と言ったそうです。クラスの他の子供たちは1から順に足していたのに対し、ガウスは、ノートに「5050」とだけ書いたそうです。先生がどう計算したか聞くとガウスは「1と100を足すと101になります。2と99を足すと101になります。3と98を足すと101になります。このように、101が50個あるので、101×50で、5050です」と答えたというエピソードです。なんとも言えない気分になったのを思い出します。どうも屁理屈のようにしか思えない気がする上、「5050」という計算結果も、あまりにも出来すぎていて、にわかに信じられない気がしたのです。かといって自分で1から100まで実際に足してみて確かめる気にはならなかったわけです。このような意味で、ありがたくない書物が「数・形」という図鑑でした。ひとつ、統計に関するもので、印象に残っている話題がありますが、いまここでそれを紹介する場ではないと感じます。この図鑑に、4次元の立方体の展開図が載っていたのです。意味はわからないながら、以下のような図でした。

そして、4次元の立方体の図は、4次元だからかけない、と記してありました。あとから考えると、これがかいてなかったのは非常に幸いでした。私はこれを考えることができたからです。「推理小説を古本で買ったら、1ページ目に犯人の名前が書いてあるといういたずら書きがしてあった」という小噺を読んだことがありますが、まさにそれであり、私はこの「数・形」という図鑑に、4次元の立方体の絵がかいてなかった(かけないと書いてありましたが、私は以下に記しますとおり、かけたのです)のは、ありがたかったことでした。その意味で、この図鑑はありがたくない書物でした。このように、数学の話題を先取り的にネタバレさせていく書物だったからでしょう。(改めてインターネットのない時代でよかったです。私はすべて自分で考えるよりなかったのでした。)
それで、いま住んでいる世の中が、3つの方向がある3次元であり、もう1つ、方向がある世界を考えたらそれが4次元であることは、分かっていたと思います。いつから4次元の立方体のことを考えていたでしょう。細かいことは残念ながら思い出せません。4次元の立方体については、長い時間、考えていたことを思い出します。なんとなくですが、中学のころ吹奏楽部に入っていてフルートを吹いており、フルートの先生のお宅のある、自宅から歩いて1時間くらいのところの林を歩きながら考えていた記憶があります。1か月以上は考えていたと思います。思いついたときのことは鮮明に覚えています。正方形というものは、線分を、その線分の含まれる直線(1次元の空間)と、違う方向へ、その線分を動かしたときにできる図形であり、立方体というものは、正方形を、その正方形の含まれる平面(2次元の空間)と、違う方向へ、その正方形を動かしたときにできる図形であると考えると、その次に考えられることは、立方体を、その立方体の含まれる3次元の空間と、違う方向へ、動かしたときにできる図形が、4次元の立方体である、と気づくわけです。私は「わかった!わかった!」と心の中で叫びました。帰宅してから紙にかいたその図形の絵は以下のようであったと思います。

これによりますと、以下のことが分かります。4次元の立方体の、頂点の数は、3次元の立方体が、上と下に1つずつあるため、3次元の立方体の頂点の数である${8}$個の倍で、${16}$個であること。4次元の立方体の、辺の数は、3次元の立方体が、上と下に1つずつあって、それぞれ${12}$本ずつあるほか、立方体の頂点${8}$つが動いてできる辺が${8}$つあるため、${12\times 2+8}$で、${32}$本であること。面(正方形)の数を考えると、それは、上と下にある立方体に、それぞれ${6}$枚ずつあるほか、立方体の辺が${12}$本あって、それが動いてできるものが${12}$枚あるので、${6\times 2+12}$で、${24}$枚あること。そして、3次元の立方体が、2次元の正方形で囲まれているように、4次元の立方体は、3次元の立方体で囲まれていると考えるべきであり、いくつ立方体があるかというと、上と下に1個ずつあるほか、立方体の正方形${6}$枚が動いてできる立方体が${6}$個あるはずで、${1\times 2+6}$個すなわち${8}$個の立方体からなると分かるわけです。
(確かに「数・形」という図鑑にあった4次元の立方体の展開図も、立方体${8}$つからなっており、そして、3次元の立方体の展開図が、1次元低い2次元の図形となるように、4次元の図形の展開図なら、1次元低い3次元の図形になるのは自然でした。)
「切り口」を考えると、それは、1次元の直線の切り口は点であり、2次元の平面の切り口は1次元低い1次元の線であり、3次元の形を切った切り口は、2次元的な平面図形であることから考えても、4次元の図形を切った切り口は、3次元の図形になると考えるのが自然なのでした。この「切り口が3次元の図形」とか「展開図が3次元の図形」ということは、感覚的に妙ですが、考えれば考えるほどこう考えるのが自然であるのが、なんとも言えず不思議で魅力的な気がしました。
この「わかった!わかった!」というときは、周囲の大人に言ったかもしれませんが、おそらく理解はされなかったと思います。「なるほどね。君の言う通りだね」と言ってくれる大人はいなかったのです。
先ほどの「4次元の立方体の絵」は、もう少し考えを整理して、以下のような図にかくようになりました。3次元の立方体の図は、標準的に、たて、よこ、そしてあと1つの方向は、しばしば右肩上がりのななめの線でかくので、もう1つ方向があるとしたら、右肩下がりの線で、同じ長さくらいにかくのが自然であると思うようになったからです。

このあとも、4次元のことは、中学のころにいろいろ考えることになります。高校に行ってもしばらく考えることになりました。高校1年のときの数学の先生の言われたことを思い出します。先生には、自分でかいた4次元の立方体の図(上の図)を見せていました。当時はインターネットはありません。先生はあるとき「君のかいた通りだもんなあ」と言いながら、上の図と同じ図がかいてある本の図を見せてくださいました。私はとくに驚きませんでした。自分のように考えれば、同じ結論に達し、同じ図をかくのは当然であったからです。しかし考えてみますと、先生は内心驚かれたのだろうといま思います。きっと半信半疑でいろいろな本を調べていて、私のかいた図と同じものが出て来たからです。
話をこの最初に気づいた中学のときに戻します。このように、4次元というものが、漠然となんとなくわからないものであるようでありながら、よく考えると、「ある」ということ、4次元における立方体というものは確かにあり、考えると、頂点の数も辺の数も面の数もわかること。(私はこれらの計算を、規則性から考えることはなぜかありませんでした。そもそも「ある」ということが大きな気づきであったわけです。)「数・形」という図鑑には、図はかけないと書いてありましたが、かけること(3次元の図形も2次元の紙にかいているのですから、4次元の図形も2次元の紙にかこうと思えばかける)。この「よく考えてみると、4次元というものは、ある」という現象が、なんともいえず興味をひかれたのです。このあともしばらく4次元のことは考えることになります。
高校2年のときに、これらのことをまとめたレポートを高校に提出しました。残念ながらなくなっていますが、そのときにはこの図形を表す用語を編み出さねばなりませんでした。(どの本にも載っていないからです。)「正多面体」という言い方は、面がたくさんあって、それで囲まれた体がある、という書き方なので、これにならい「正多体塊」と呼んでいました。たくさんの「体」で囲まれているからです。「塊」というのは4次元のかたまりを表す思いつきの字です。今回の図形は「正八体塊」ということになります。以後、この一連の記事では、この書き方をさせていただきたいと思います。本日の記事はここまでとさせていただきます。(先ほどからずっと、自分の時代にインターネットがなくてよかった、ネタばらしがなくてよかった、と書きながら、まさにいま、自分がインターネットでネタばらしをしているような状態なのが現代の若い人に申し訳ないような気分にもなりますが、これはしようがないと言えますかね・・・)
