コーシー・シュワルツの不等式と三角形の成立条件

このブログ記事は、思い切り「高校数学テクニカル」だと思います。数学は頭が痛くなるというかたには、どうぞ他の記事をお読みいただけたら、と思います。

高校数学の「数学Ⅱ」の教科書の「式と証明」というところに、以下のような問いが載っています。

次の不等式を証明せよ。

$${(a^2+b^2)(x^2+y^2)\geqq(ax+by)^2}$$

教科書にはとくに書いてありませんでしたけど、これはコーシー・シュワルツの不等式と言われるそうですね。私がSNSでフォローさせていただいているある同業者さんが、これの「エレガントな」証明を募っておられましたので、私は以下のように考えました。

この教科書の問いは、左辺から右辺を引いて、${0}$以上となることを示す演習問題ですが、以下のように考えることもできます。

ベクトルは「数学C」で学びますが、(ユークリッド)平面上のベクトル${\vec{a}=(a,b)}$、${\vec{x}=(x,y)}$を考えます。すると、先ほどの不等式は以下のように書けます。右辺に出てくる「${\cdot}$」は内積です。

$${|\vec{a}|^2|\vec{x}|^2\geqq(\vec{a}\cdot\vec{x})^2}$$

ここで、${\vec{a}}$と${\vec{x}}$のなす角を${\theta}$とすると、上の式は以下のように書けます。

$${|\vec{a}|^2|\vec{x}|^2\geqq|\vec{a}|^2|\vec{x}|^2(\cos\theta)^2}$$

すなわち、以下の式と同値になります。

$${|\cos\theta|\leqq 1}$$

これは、${0\leqq\theta\leqq180^{\circ}}$ですから、「数学Ⅰ」の三角比で習いますね。

これは、最初の不等式が、

$${(a^2+b^2+c^2)(x^2+y^2+z^2)\geqq(ax+by+cz)^2}$$

でも同様の議論となります。これは3次元の(ユークリッド空間の)ベクトルでの議論となるわけです。

さて、以下ではいままで出てきた${a,b,c}$と、違う意味で${a,b,c}$を使います。同じ文字を使ってごめんなさいね。三角形の3辺の長さを${a,b,c}$とし、長さが${a}$である辺に向かい合う角の大きさを${A}$としますと、余弦定理は以下のことを主張しています。

$${\cos A=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}}$$

ここでさきほどのコサインの絶対値が${0}$以下であることを使うと、以下のようになります。

$${-1<\cos A<1}$$

すみません。三角形では${A}$が${0^{\circ}}$や${180^{\circ}}$にはならないと思って(三角形がぺっちゃんこになります)、等号を省きました。

ここから以下のことがいえます。

$${-1<\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}<1}$$

これを変形すると、以下の式になります(変形は演習問題といたしましょう)。

$${|b-c|<a<b+c}$$

すなわち「数学A」の「平面図形」に載っている、いわゆる三角形の成立条件と言われるものになります。

これらはすべて同値であり、ユークリッド平面上における三角不等式ですから、当たり前かもしれないですけどね・・・。しかし、あまり大学受験数学といいますか高校数学では見ない議論のような気がしまして、ブログ記事にいたしました。

ついでに付け加えますと、「数学Ⅰ」の統計で学ぶ相関係数は、${-1}$以上${1}$以下の値しか取りませんが、これもある角のコサインだからです。

相関係数を${r}$として、以下の式が教科書に載っています。

$${r=\frac{s_{xy}}{s_x s_y}=\frac{(x_1-\bar{x})(y_1-\bar{y})+\cdots+(x_n-\bar{x})(y_n-\bar{y})}{\sqrt{((x_1-\bar{x})^2+\cdots+(x_n-\bar{x})^2)((y_1-\bar{y})^2+\cdots+(y_n-\bar{y})^2)}}}$$

これは、${n}$次元のベクトルの、分母を大きさかける大きさ、分子を内積と考えると、${r}$はある角のコサインになります。それで、${-1\leqq r\leqq 1}$となるのです。

この相関係数がはじめて高校の教科書に載った十数年前は、当時、勤めていた中高の教員では、この記事の冒頭のコーシー・シュワルツの不等式から説明していた人もいたようです。私はこの方法でしたが、私の授業は崩壊していて、誰も聞いていませんでした。いずれにせよ、すべて同値です。

これは学部4年(1998年)のときに読んだ河野俊丈著「曲面の幾何構造とモジュライ」の8ページには「ユークリッド平面における3角不等式は、3角形の2辺の長さの和が他の辺の長さより大きいことを言っているわけで、ベクトルに関するコーシー・シュワルツの不等式よりただちに示される」と書いてあります。そのころの私には常識だったのですね。ずっとのち、数学者の夢が破れて中高の教員になり、さらに現在、算数・数学教室の講師になり、改めて思ったことです。冒頭の、「コーシー・シュワルツの不等式の(エレガントな)証明」というよりはその逆で、コーシー・シュワルツの不等式から、三角形の成立条件、すなわち三角不等式を示した、ということになるでしょうね。論理の順番としては逆でした。

本日は以上です。本日の記事は長かったですね。おつかれさまでした!

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