マンガ「アオアシ」を読んで感じた「大船に乗って人生の艱難を乗り切る」話

あるかたから、マンガ「アオアシ」(小林有吾)をすすめられて読んでいます。愛媛県のサッカー少年である中学生、青井葦人(あおい・あしと)が、中学を卒業して、東京でプロサッカー選手を目指す話です。いま、4巻の途中まで読んでいます。よく読むと、葦人は、典型的な「大船乗り」であることがわかります。大船に乗ったような大らかさで、襲い来る艱難の数々を乗り越えようとする、そういう話です。

葦人のお母さんは、なさけの厚い人でした。葦人にたっぷりの愛情を注いで育てています。それに伴い、葦人も、親思いな息子に育っています。印象的な場面をひとつ書きます。3巻の途中に書いてあることです。ジュニアユースの寮に入る葦人に、ユニフォームと練習着が配られます。母親からもらったお金を下ろしてこようとする葦人に、じつはユニフォームは無償で支給されるのであることが知らされました。かつ、クリーニングも無償、サイズが変わっても無償、選手寮はJリーガー仕様、広いトレーニングルームも完備、これで月5千円の寮費だそうです。葦人は、まだルームメイトの現れない自室で大の字になって仰向けになりながら、24時間365日をサッカーの練習に費やせる喜びをかみしめていました。

考えてみますと、私も博士課程に入学した25歳のとき、24時間365日、数学にすべてをささげてよい状況に置かれました。たっぷりの奨学金をいただきながらです。(研究者になれば返さなくていいもので、実質的にもらっていました。私は返すはめになりましたが。)3年後には結果を出さなくてはならない―「絶対にプロ(の数学者)になる」という目標も葦人と同様―という厳しい掟もマンガそっくりです。しかし、私は葦人と違って「どろぶね乗り」でした。「24時間365日、すべて数学にささげてよし。その代わり、3年後に結果(博士論文)を出せ」という状況に置かれたとき、私は、取り返しのつかないような統合失調症の大病をやったのです。以来、私は数学者の道を断たれました。

マンガの青井葦人は、その「大船力」で、襲い来る艱難辛苦を、乗り越えて行きます。4巻では、基礎ができていないことを自覚して練習をする葦人のところへ、仲間の橘と大友がいっしょに練習に来ました。葦人は、すべて前向きに困難をひとつひとつ乗り越えて行きます。それの源泉は、すべて母親から深く愛されたことによる精神の安定状態から来ています。

私は、研究の大海原に、どろぶねで出帆してしまったのです。それは沈むことが必定でした。しかし、たったいま、私は「自営業の大海原」にどろぶねで出帆しています。25歳のときと同じような状況です。しかし、どういうわけかいまの私はどろぶねで沈むことがありません。なぜでしょうか。

それは、いまの私は独りぼっちではないからです。助けてくれる家族がいます。私は長い長い洗脳から解かれ、いま、自分の道を歩いています。25歳のときにこうだったらどれほどよかったでしょうか!しかし、いまの私は「大船に乗る」ことを少しずつ覚えつつあります。いまだにどろぶねに乗って沈みかかりますが、「たいがいのことはどうにかなる」と信じて、大船に乗っている家族に支えられながら、人生を楽しんでいます。これからどういう艱難が待っているかわかりませんが、大船に乗ったつもりで乗り切りたいです。48歳からの人生の船出です!

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