円周率は3のほうが難しい?

ゆとり教育のネタで、よく「円周率が3」というのが出ます。ほんとうに円周率が3と習った人がいるのかどうかは都市伝説みたいな話のようですのでそれは置いておきますが、本日は「円周率を3.14とするのより3とするほうが難しいのではないか」というお話をいたしますね。

小学校はだいたい「ぴったり教育」です。ぼうグラフをかくにしても、1ミリ単位で「ぴったり」であり、教科書も極めてお膳立てよく書かれています。以下、高校の教科書(「数学Ⅰ」数研出版)からですが、例を挙げますね。

「山のふもとのA駅と、山頂のB駅を結ぶケーブルカーの路線の全長は3000m、傾斜角は25°であるという。A駅とB駅の標高差と水平距離は、それぞれ何mか。1m未満は四捨五入して求めよ」という問いです。教科書の巻末の三角比の表を見て答える問題です。

答えは「標高差は1268m、水平距離は2719m」となっています。標高差も水平距離も、有効数字が4桁もあります。ということは、A駅とB駅のあいだの距離である3000mというのは、ものすごくぴったり3000mだったことになります!

そんなことはありますかね。普通「3000m」と言ったら、「だいたい3000m」という意味ではないのですかね。これ、傾斜角の25°もぴったり25°ですね。こういう不自然な問いが教科書にはときどき載っているのです。おそらく学習参考書にはもっとたくさんあるでしょう。

以下は当教室のエピソードです。使用にあたりご本人と親御さんの許可は得ています。学校の成績はかんばしくないという小学生の生徒さんです。あるとき私は「1時間は何秒ですか」とおたずねしました。してすぐ「意味のない問いをしてしまった」と思いました。1時間が何秒かなど、知ってどうするのですかね。

この生徒さんは「3600秒」と即答なさいました。しかし、これは計算したのではなく、最近、復習テストで出たということで、それを覚えておられたのでした。ご自身は外されたそうです。千何百秒と答えられたそうで、ただし「桁はあっていた」とおっしゃっていました。

この生徒さんは、大ざっぱな計算がおできになります。学校のテストで反映されにくい賢さをお持ちです。受験突破用の計算能力ではないですが、概算のセンスを持っておられます。

算数のテストで「3600秒」が正解だとすると、「3601秒」と答えてもバツとなります。ほとんどあっているのに!そして、「36000秒」と答えた人は「ケアレスミス」と言われたりします。とんでもないですけどね。桁を間違えているわけですから。ある意味。

それで円周率の話ですけど、以下の図をご覧ください。(今回のブログ記事は、やたらほんとうに計算をご覧に入れる例が多くて恐縮です。)

これは、正方形と、その正方形を1辺の長さとする円の${\frac{1}{4}}$を4つぶんあわせた絵です。この中心当たりにある斜線部分の面積を求める問いを、あるときある生徒さんからたずねられました。いかにも中学入試っぽい感じの問いですが、解いてみますと、1辺の長さを${1}$としたとき、この部分の面積は${1+\frac{\pi}{3}-\sqrt{3}}$でした。(三平方の定理を用いました。円周率は${\pi}$としています。あってますか?)

ところで、以下のように、上の絵の、弧の4つの交点を結んでできる正方形の面積を考えますと、これは${2-\sqrt{3}}$でした。

この2つ、円周率が3だったら、同じになるのですよね!

つまり、円周率が3だと、「この上の絵の四角っぽい形の面積と、下の絵の正方形の面積と、だいたい同じですよね」ということになります。つまりわれわれは「こんな変な形の面積をそんなに正確に求めてどうするのですか」という問いに直面することになるのです。(実際の生活では、われわれの多くは、円の面積の公式を使うこともあまりないと思います。お皿に乗る料理の量を考え、お皿の直径を定規で測り、その半分で半径を求め、半径かける半径かける3.14で面積を求める…などということは普通はしないでしょう。)そして、これは三平方の定理を使ったので中学入試ではおそらく出ないにせよ「そんな変な計算をして、いい中学(または高校)に入ってどうするのですか」という問いに直面し、さらに、たとえば灘中に入って東大に落ちるのより、灘中に入れなくて東大に受かるほうが皆さんいいのでしょうから「そんなにいい大学に入ってどうするのですか」という問いにぶつかることになります。(最後の論は極端に感じられたかもしれませんが。)

これが概算です。大ざっぱな計算です。そして、「まとも」な計算です。

皆さん、大ざっぱな計算が苦手でしょう。いわゆる「できる」と言われる人ほど苦手でしょう。

私の知っているある恰幅のいい牧師さんが、あるときダイエットをしたと言っていました。何キロやせたのか、おたずねすると「500グラム」と言っていました。こんなダイエット、意味あるのかと思ってしまいました。細かく計算する人は、大ざっぱな計算ができないのです。まあこれはご愛嬌ですけど。

ゆとり教育のネタで、円周率を3という話題を出されるかたは、暗黙のうちに、円周率は、3.14と考えるより、3のほうがやさしい、という前提でしょう。それが違うと思うわけです。

円周率は、3.14と考えるのより、3と考えるほうが高度な計算が要求されると思いますよ。本日は以上です!

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