教科書に載っている正弦定理の証明に疑問を持たれた大人の生徒さん

また、当教室での授業の様子を公開いたしますね。掲載に当たり、ご本人様の許可は得ております。
昨年(2023年)の夏ごろお問い合わせをくださった生徒さんです。過去に1度、授業のご紹介の記事は書いたことがあります。現在、数学を使うような仕事をなさっており、しかし、高校のころ、ほとんど数学を学んでおられないとおっしゃる大人のかたです。「三角比(サイン、コサイン、タンジェント)」から学び始めました。
開始してすぐに気づいたことがあります。この生徒さんは、わからないことを「わからない」とおっしゃることができるのです。私の長い話の腰を折っても「わからない」とおっしゃってくださいます。それで、どこまでがわかって、どこからがわからないか、おたずねすることができますので、はっきりわかりながら、教科書を読み進めることができます。毎回、非常に充実した時間を過ごすことができています。私も非常に勉強になっております。ありがたい生徒さんです。
そこで、半年くらいをかけて、三角比を学び、正弦定理の証明を学ぶところが来ました。ところが、その生徒さんは、正弦定理の証明を、どうしても「わからない」とおっしゃるのでした。その生徒さんは、少しでもわからなかったら「わからない」と言ったほうが「お得」であることは気づいておられます。そこで、何回かにわたって正弦定理の証明をつぶさに見ていくと、以下のようなことがわかりました。
つまり、このブログ記事は「数学がちがち」の記事かもしれないのです!ごめんなさいね。
正弦定理は、以下のことを主張します。${\triangle{ABC}}$の角${A}$の大きさを${A}$、その向かい合う辺の長さを${a}$、三角形の外接円の半径の大きさを${R}$としますと、正弦定理は、${\frac{a}{\sin A}=2R}$ということを主張しています。すなわち、${a=2R\sin A}$を主張しています。その証明は、高校の教科書に載っているおそらく最もスタンダードなもので、以下のようになります。
${\triangle{ABC}}$の外接円をかき(その生徒さんは、外接円の意味から聞いていかれました。とにかく少しでもわからないことははっきりさせてから進まれるかたなのです)、角${A}$と辺${BC}$が外接円の中心${O}$から見て反対側にあるとき(以下の絵をご覧ください)、${BO}$と三角形の外接円の延長上にある円周上の点を${A^{\prime}}$としますと、円周角の定理から${A=A^{\prime}}$となり、図のように、三角比の定義から、${a=2R\sin A}$が言えるのです。

これで大まかには正弦定理の証明はおしまいです。正弦定理を成り立たせているのは、円周角の定理だということがわかります。(そして、円周角の定理を成り立たせているのは、三角形の角の大きさの和が常に${180^{\circ}}$であることだということですね。)
われわれの教科書には、親切にも、円周角の定理(中学3年で習う)の復習が載っています。それに加えて、円に内接する四角形の向かい合う角の大きさの和が${180^{\circ}}$になることも載っています。(これらの「復習」は、私が中高の教員であった二昔前くらいには載っていなかったと思います。)われわれは、円周角の定理の証明からやりました。
ところで、先ほどの正弦定理の証明では、「技術的細部」をうめる必要があります。角${A}$と辺${BC}$が外接円の中心${O}$からみて同じ側にあるとき、場合分けが必要になるわけです。その中間として、辺${BC}$が外接円の中心をぴったり通る場合があります。
ところが、この場合分けを、教科書では、角${A}$が[1]鋭角のとき、[2]直角のとき、[3]鈍角のとき、というふうに場合分けしてあるのです。これが、その生徒さんは納得が行きませんでした。私もきちんと明解に申し上げることができません。私も考えました。そこでようやくわかりました。これは、教科書がその「親切な復習」で載せていない「円周角の定理の逆」を使っているのだ!ということでした。
(ちょっとこのブログ記事では伝わりづらいでしょう。ごめんなさいね。)
これは、うかつにも私も気づいていませんでした。私にも11年の中高教員の経験があるのに、こういう論理になっているとは気づきませんでした。のみならず、教科書にこう書いてあって、だれも突っ込まないところを見ると、世の中のほとんどの高校生、および高校の先生は、このギャップ(論理的飛躍)に気づいておられないのでしょう。
(正確には、教科書にこの正弦定理の証明を載せた人は認識していたと思います。その「親切な中学の数学の復習」を載せた人は気づいていないのです。)
私も、その生徒さんのおかげで気づくことができました。正弦定理の証明。まっさらな状態で臨む大人の生徒さんのおかげで、本質的な学びになっております。その生徒さんには本当に感謝しています。引き続き、その生徒さんとは、現在、余弦定理を学んでいます。これからも楽しみです!
