微分と積分を直観的に理解した大人の生徒さん

また、当教室での授業のようすを公開いたしますね。公開に当たり、ご本人様の許可は得ております。
前にご紹介いたしました、大人になってから微分や積分を学び、いきなり本質を理解なさった生徒さんです。今回の記事は、一般的な高校生が微分や積分に入門するときと、大人になって、受験に関係なく微分・積分に触れた人との、理解のしかたの大きな違いについて記事を書きたいと思います。おかげさまで当教室のブログもコアな読者のかたがおられるようで、このような「高校までの数学は理解なさっている」かたを読者に想定した記事が書けるようになりました。今回の記事は、ある程度の(高校で習う程度の)微分・積分の知識を前提とさせていただき、少し長めの記事でもお読みになるかた向けに書きます。もっと違うタイプのブログ記事もたくさんありますので、「この記事はちょっと自分が読むには向いていないな」とお思いになったかたは、どうぞ他の記事をご覧ください。この記事は、とくに高校で習う微分・積分をひととおりご存じのかたで、数学に興味のあるかたには、おもしろくお読みいただけるのではないかと思っております。それでは、本題に入りますね。
この生徒さんは、高校時代は、美大に行く勉強をなさっており、高校の数学の時間がだいぶ美術になってしまったということで、あまり高校で数学を勉強なさっておられないのでした。たまたま高校の教科書を入手なさったということで、「${\int}$ってなんですか?」とおたずねになるので「インテグラルと読み、積分を意味します」とお答えし、「${\lim}$ってなんですか?」とおたずねになるので「リミットと読み、極限を意味します」というような会話が最初になされ、えいやっと微分・積分から習い始まった、という生徒さんです。いまから半年ちょっと前のご入門でした。
それで、微分の最初から検定教科書に沿ってご説明申し上げますと、いきなり微分の本質を直観的に理解なさったのでした。これは、2つの要因があると思っています。①高校時代に習っていないため、余計な先入観がない。②受験を控えた高校生ではない。こういう条件によってかえって本質的理解にいたる生徒さんは、当教室では珍しくありません。ときどき更新している、この「授業の様子の公開」ブログをお読みいただけると、ほかにもそういう生徒さんがおられることがおわかりいただけると思います。この記事では、この生徒さんが、多くの高校生と違うところでつまずいた例を、おもに微分でひとつ、積分でひとつ、ご紹介したいと思っております。
まず、検定教科書の最初のページは、物体の自由落下について例とし、平均の速さと瞬間の速さについて述べ、微分のエッセンスを伝えます。この生徒さんは、これで微分の本質は理解してしまいました。「自分しか世界にいなかったら、この発想はしなかったと思う」という感想をくださいました。とにかく理解してしまったのです。
そうしますと、微分の最初のページで本質を理解してしまわれたので、2ページ目に書いてある、位置や時刻を離れた抽象的な議論で微分係数を定義するところ、3ページ目で極限および極限値を定義したのち、微分係数を「${\lim}$」で定義するところ、4ページ目で微分係数は接線の傾きであると説明するところ、やがて微分係数を一度に求めることで「導関数」を求める(微分する)という、関数から関数を得る操作にいたるまで、ご一緒に教科書をお読みし、「教科書は同じことを手を替え品を替え言って来る」という感想を持たれました。そうかもしれません。集合にせよ、三角比にせよ、最も大切なことは、最初のページで学ぶのかもしれないからです。これは小学校算数から大学数学までそうです。
さて、高校生の皆さん(ということは、この記事をお読みの大多数のかたも含めて)がほとんど引っかからないところで、この生徒さんが引っかかった点を書きます。${\lim_{a\to1}(a+1)=2}$という式を見て、「これは、${a}$が${1}$に近づくのに、決して${a}$は${1}$にはならないのですよね。ですから、${a+1}$は限りなく${2}$に近づくでしょうけど、決して${2}$にはならないのですよね。なぜ、『イコール2』と書くのですか」とおたずねになったのです。これは極限値というものに対する根本的な姿勢を反映したご質問です。(大学教養数学で微分積分学を学ばれたかたは、これは極限というものを厳密に定義していないからだ、と思われたかもしれませんが、それは違うと思います。この生徒さんは、「直観で理解する」という顕著な特色をお持ちでした。厳密な極限の定義が高校の教科書ではなされていないから惑った、ということではないです。)
この生徒さんは、以下のように考えておられたのです。
関数を${f(x)=x^2}$とします。瞬間の変化率(微分係数)が刻々と変わる最もシンプルな関数と言えましょう。これの${x=1}$における微分係数を考えましょう。この関数が${1}$から${a}$まで変化するときの平均の変化率は以下のように計算できます。そのあいだに${x}$は${a-1}$だけ変化し、${f}$は${f(a)-f(1)}$だけ変化しますので、変化率は${\frac{f(a)-f(1)}{a-1}=\frac{a^2-1^2}{a-1}}$です。これの分子を因数分解し、さらに約分すると(この生徒さんは、因数分解や約分は「認めて」おられました)、${\frac{a^2-1^2}{a-1}=\frac{(a-1)(a+1)}{a-1}=a+1}$です。ここで、${a}$を限りなく${1}$に近づけたものがかの${\lim_{a\to1}(a+1)}$であったのです。これは${2}$です。微分の計算をご存じのかたは、${f^{\prime}(x)=2x}$であって${f^{\prime}(1)=2}$と計算されることはご存じでしょう。それの定義に基づいた計算になります。これは私にとって大きな気づきでした。多くの高校生は、ここでこんなに迷わないのです。それは以下の事情によると考えられます。
つまり、${a+1}$の${a}$に${1}$を代入したものが${2}$なのです。答えだけならあっさり${2}$と出てしまいます。そして、高校の授業では、答えが出ればマルがもらえ、理解したということで先に進みます。これは「かんたん」です。だからほとんどの高校生さんはここで惑わないのです。その代わり・・・微分の本質的な理解に到達しないままの生徒さんが多いことにもなります。
つぎに積分を例に取ります。簡単に高校での積分の教科書に書いてある順のおさらいをしますと、まず不定積分を、純粋に微分の逆の演算として定義します。しばらく高校生は、なんのために微分の逆の計算をせねばならないのか不明のまま計算練習をさせられることになります。そして、2ページ間で、積分すなわち微分の逆の操作で面積が出ることを学びます。この2ページが本質です。そして、ひとたびそれが言えたら、それを動機付けとして、定積分を学び、定積分の計算練習を積んだら、あとは面積を計算する練習をすることになります。ここまで「数学Ⅱ」と言われる高校の教科書に沿っており、微分も積分も、多項式関数に限られますが、微分、積分の本質はこの教科書で学ぶことになります。
不定積分の特徴ですが、微分して${y=x}$となる関数はたくさんあったわけです。具体的には積分定数と言われる定数分だけの違いがあるのでありまして、${y=\frac{x^2}{2}+C}$(${C}$は積分定数)となるわけです。この生徒さんは、${\frac{x^2}{2}+C}$を微分したら${x}$になることはきちんと理解したうえで、定数分の差しかないことは、私が放物線の絵をかき、この傾きがすべて決まっているのですから、あとは上下に動くだけでしょう、と申し上げましたら「直観的に」理解なさいました。かえって私が「それ以外に不定積分はあるでしょうか」と申し上げると、自信をなくされるかのようでした。この生徒さんの特徴がこの「直観で理解する」ところにあるのは明らかなようでした。私は気にすることなく、先に進みました。
さて、微分の逆の操作で関数のグラフで囲まれた部分の面積が出る話になります。以下の図をご参照ください。

${y=f(x)}$を、ある区間で常に正の値をとる(つまりグラフが${x}$軸のうえにある)関数とします。ここで、${a}$を、${t}$よりは小さい定数としまして、直線${x=a}$、${x=t}$、${x}$軸、の3つの直線と、関数${y=f(x)}$のグラフ(一般には曲線)で囲まれた部分の面積を、${t}$の関数とみて、${F(t)}$と書きますね。これで、${\Delta t}$をなるべく絶対値の小さい正の数としまして、${F(t+\Delta t)}$を考えますと、これも${F(t)}$よりは少し大きい面積(を表す正の数)となり、その差である${F(t+\Delta t)-F(t)}$は、絵に見るところのタテに長細い部分の面積をさすことになります。この絵ですと、なんだか台形っぽい形ですね。これに近い値を取るものとして、タテの長さが${f(t)}$で、ヨコの長さが${\Delta t}$であるような長方形があります。${\Delta t}$が小さい数だとすると、これらの面積は近くなります。そこで${F(t+\Delta t)-F(t)\fallingdotseq f(t)\Delta t}$となります。両辺を${\Delta t}$で割って${\frac{F(t+\Delta t)-F(t)}{\Delta t}\fallingdotseq f(t)}$となります。これは${\Delta t}$を限りなく${0}$に近づけると、ほぼ長方形の面積となりますので、等しくなります(ここでさっきの「極限をなぜイコールで結んでよいのか」という問いが重い意味を持ちますね)。すなわち${\lim_{\Delta t\to 0}\frac{F(t+\Delta t)-F(t)}{\Delta t}=f(t)}$となり、まさにこれは${F(t)}$の微分が${f(t)}$になっており、${F(t)}$は${f(t)}$の不定積分となるのですが、ここから問題が起きます。すなわち、${a}$という値の取り方です。「その面積はどこから始まっているのか」。積分定数の問題となるのです。(ここまで、私の議論は問題ないですか?)
この生徒さんは「起点」という言葉をひんぱんに使われました。どこからこの面積ははじまっているのか。どこでもよいのですが、どこかには決めねばなりません。これはまさに積分定数の問題です。最初、この生徒さんは、原点からスタートするのだと思われたようです。しかし、原点である必要はないことを申し上げますと、またしばらく考えられました。
式変形においてもそうです。同様のことですが、${\int x^2dx=\frac{1}{3}x^3+C}$というのも、${\frac{1}{3}x^3}$という関数が「起点」となっているのだろうとお考えになったようでした。私が必ずしもそうではないことを申し上げますと、また考えられました。
私は改めて思いました。高校の授業で、ここまで積分定数の理解に注力なさった生徒さんはほとんど見たことがないという事実でした。これもどうしてか、理解できました。高校ではとにかく積分定数といったら「${+C}$」と書きさえすれば「マル」が来るのでした。そして、マルが来たらそれは理解したということで、先に進みます。こんなにかんたんなことはないというほど「かんたん」です。しかし、その代わり・・・積分の本質を理解していない生徒さんが多く出現することになるのでした。
これがどれくらい理解されていないかは、以前のブログにも書きましたが、多くの高校の先生は理解していないのではないかと思うほどなのです(大学の先生でもときどき理解なさっておられないかたがおいでになりますが)。あるベテランの高校教員が「${a}$から${b}$まで積分すると面積が出るのだぞ。ふーんという感じだろ」と職員室で言っていたのです。その先生は自分が「なぜ微分の逆の操作で面積が出るのか、理解していない」ことを露呈していたのです。しかし、その先生は職員室で恥をかきませんでした。なぜならそれが高校の数学の教員の「標準的」な姿だからです。
私は、高校で、積分は習う前から「発見」していました。高校2年になり、理系のクラスになったばかりのころです。そもそもの動機は、4次元の体積が知りたかったことにあります。じつは、数学で微分を習う前に、その考えは、物理の時間に習っていました。時刻が少し経過すると、位置が少し変わります。この考えはおもしろいと思いました。そして、この考えをうんと展開すると、面積や体積が出るのではないかと考えたのでした。
三角形の面積は、長方形の面積の${\frac{1}{2}}$です。底辺かける高さわる2です。そして、円錐の体積は円柱の体積の${\frac{1}{3}}$です。これは4次元にいけば${\frac{1}{4}}$になるのではないかと私は考えたのです。そして、これは確かにそうなるのです。円錐の体積が円柱の体積の${\frac{1}{3}}$であることは習う前から言えました。4次元では${\frac{1}{4}}$であることも言えました。私自身にはそういった体験があります。
この生徒さんとは、まずは最も明らかでないケースとして、平面上で放物線に囲まれた面積を求める計算を学びました。お互いにえっちらおっちらと計算しましたが、できました。角錐の体積が角柱の体積の${\frac{1}{3}}$であることも示しました。4次元では${\frac{1}{4}}$になることも確かめました。球の体積も、多項式の積分を知っていれば計算できるので、やってみました。この生徒さんは、楽しんでくださいました。ありがたいことです。
引き続き、この生徒さんとは、三角比を学んでおります。本稿執筆時点で、正弦定理や余弦定理を学びました。「三角形についてマニアックに考えた人の考えの追体験をしているよう」というのがこの生徒さんの感想でした。間もなくこの生徒さんとは、三角関数の勉強をはじめようと考えております。最終的には、三角関数の微分や積分ができるようになることを目標としているわけです。遠い道のりを楽しみながら歩みたいと願っています。
いかがでしたでしょうか。本日のブログ記事はマニアックではありましたが、はじめて微分や積分を学ぶ人がどういった発想をするか、というひとつの例をお見せすることができたと思っております。三角比についても、多くの高校生とはまったく違うルートで発想なさいますので、私もとても勉強になっております。引き続き、この生徒さんとご一緒に学んでいきたいと願っています。
