ウィーンフィルの指揮者のように、お客さんに手拍子をうながしながらラデツキー行進曲を指揮した

中高の教員だった時代、オーケストラ部の顧問として、指揮者を務めたことがあります。たった3年間だけでしたが、たくさんの指揮の機会をいただき、多くの貴重な経験ができました。本日は、指揮者として最後の年度となった2016年度、学校主催の夏のコンサートで、お客さんに手拍子をうながしながらラデツキー行進曲を指揮した思い出を、当時の日記を見ながら記憶をたどり、書きたいと思います。
本番は7月10日でした。場所は学校の講堂です。2部構成の無料コンサートで、後半にプロのゲストを呼び、前半には、合唱部や吹奏楽部、われわれオーケストラ部などがそれぞれ10分から15分くらいの持ち時間をこなす、といったコンサートでした。私は顧問だった時代、自分が指揮しない場合も含めて、このたぐいの講堂での本番、部員の生徒の皆さんを引率して、講堂の下で出番を待ったりするような仕事を、数え切れないほどしたものです。そのうちの1回で、自分が指揮者として出演する本番でした。
オーケストラ部のこの日の本番は、以下の2曲でした。
モーツァルト フルート協奏曲第2番ニ長調より第1楽章
ヨハン・シュトラウス一世 ラデツキー行進曲
学生ソロです。私は吹いていません。私は指揮をしただけです。
私の楽器がフルートであることと、この日の協奏曲がフルート協奏曲であることは、とくに関係ありません。当時、かなりフルートの吹ける生徒さんがおられ、コーチの先生(「正指揮者」の先生)が、その生徒さんをソリストとして、協奏曲をやることになさったのでした。
アマチュアオーケストラをやっておりますと、ときどき協奏曲の経験があります。思わず有名なソリストの先生と共演できてしまったりするものです(たとえば「清水和音さんのソロでチャイコフスキーのピアノ協奏曲をやりました!」みたいな感じですね)。また、聴き手としては、これも有名なソリストが、格安で聴けてしまったりするものでした。私は後者の、つまり客として有名ソリストを聴く経験はたくさんありましたが、前者の、つまり、有名ソリストと共演する経験は一度もありませんでした。ただし、考えてみますと、このときのように「協奏曲を指揮する」経験はあったわけです。この曲は、私が指揮者として経験した唯一の協奏曲です。練習指揮は全楽章やりましたが、本番はこのときの第1楽章のみです。
(さらによく考えてみますと、「協奏曲のソリスト」の経験もありますね。高校時代、文化祭で、バッハのブランデンブルク協奏曲第5番の第1楽章のフルートソロパートを吹いたことがありました。恵まれていますね、私…)
この曲は、この年度の最後の定期演奏会での演目のひとつでした。これは予行を兼ねた本番であったわけです。
シュトラウスのラデツキー行進曲をやったのにも大きな意味がありました。これは実際にオケをやったことのあるかたならピンとくる理由だろうと思います。このモーツァルトの協奏曲には、クラリネットや打楽器など、参加できない楽器がいろいろあり、そういった生徒さんの出番を確保するために、もう1曲、やったというわけです。それでこの2曲となりました。
当時の日記から、本番の様子を写したいと思います。
まず協奏曲について、「大成功!」と書いてあります。とてもうまくいったのです。弦楽器も管楽器も健闘したと書いてあります。ソリストの学生さんの度胸についてもうんとほめてあります。
このおよそ2か月前、私にはようやく発達障害の診断がくだったところでした(当時40歳、8年前)。自分の「多動性」に気が付いてきたころであり、カデンツァ(オーケストラが休み、ソリストだけが演奏する部分)では、頭をふらふらしないように必死で気を付けた覚えがあります。われながら健気ですね…。(カデンツァはドンジョンのものにしました。これは私のフルートの先生にアドバイスを乞うたものです。ドンジョンのカデンツァは、よく聴くものであり、たとえばゴールウェイがCDで吹いているのがドンジョンのカデンツァです。)
それからラデツキー行進曲です。この曲は、この前にも、何度も指揮する機会がありました。のみならず、オケの団員として、高校のころから、大学のころまで、たくさんアンコールで演奏した曲でもあります。お正月に「ウィーン・フィル・ニューイヤーコンサート」というのをテレビでやっていると思います。その最後で、指揮者がお客さんのほうを向き、手拍子をうながすマーチがあると思いますが、あれがラデツキー行進曲です。しかし、私はずっと、お客さんのほうを向いてウィーンフィルの指揮者のように手拍子をうながす真似はできないと思っていました。そんな器用さは自分にはないと思っていたのです。しかし、この日は、そろそろこの曲の指揮の経験も積んだことだし、やってみることにいたしました。再び日記を引用します。「ラデツキーはお客さんのほうを向いて手拍子した。大ウケ!やはりお客さんは手拍子したいんだなあ、やってよかった」。これはやってほんとうによかったです!
この日の録音と録画は残りました。ラデツキー行進曲では、うれしそうに手拍子するお客さんの様子も写っています。ありがたい経験でした。このあと、もう1度だけ、ラデツキー行進曲を、お客さんに手拍子をうながしながら指揮する機会が秋にあり、間もなく私は教員をやめさせられ、それに伴い、部活の顧問でもなくなり、したがって指揮者でもなくなったのでした。貴重な機会だったと思います。
それにしても、これをもって私は「モーツァルトのフルート協奏曲第2番をやったことがある」と言っていいものでしょうかね?私が子どものころ、先生「遠足のおやつは300円までです」生徒「先生、バナナはおやつに入りますか?」というネタがありましたが、まさにそれですね。私はこの曲は、レッスンさえ受けたことがないのですが…(笑)。
