三連比と射影平面

「五分五分」とか「七三分け」や「二八の法則」など、日常に、割合を意味する「2つの数を並べた言いかた」はあります。小学6年生で「比」と言って習います。奥田知志さんは「私は助ける80、助けてもらう20くらいで、助けているほうがラクなタイプですけどね」と言っていました。これも、比であると言えましょう。

「比」は、われわれが算数で習うもので、はじめて「数が2つ並んでいるもの」とも言えます。これを、2次元のベクトルであると認識しましょう。「五分五分」は、${5:5}$で、2次元のベクトルと認識します。${(5,5)}$と書くことにいたしましょう。これは、始点が原点の位置ベクトルと考えますと、2次元の平面${R^2}$をなすと考えることができます(ただし原点を除きます。${0:0}$という比は考えないことにします)。そして、ここには同値関係が入ります。${5:5}$と${50:50}$、また${1:1}$は同じ比を意味するからです。ここで小学6年生の教科書を見ます。

「2つの比で、それぞれの比の値が等しいとき、2つの比は等しいといいます」(※)と書いてあります。

その前に以下のような説明があります。

「${a:b}$で表される比で、${a}$が${b}$の何倍になっているかを表す数を比の値といいます。${a:b}$の比の値は、${a\div b}$で求められます」。

つまり、比の値は数です。「比が等しい」というのは、小学生が、すなわちわれわれが、はじめて数以外のものを「等しい」(イコールで結ぶ)という経験ではないかと思います。(数以外で「同じ」という概念は、図形の合同などをすでに5年生で習っていますが。もっとも、小学校1年生ではじめて数を習うときにすでに、同じものでないと数えることができないとも言えますけれども。)さきほどの「(※)」の説明も、まだ習っていない「比が等しい」ということを、すでに知っている「比の値が等しい」(比の値は数であり、数が等しいことは知っている)ということで定義しているのです。これで${1:2=2:4}$ということが定義できました。${\frac{1}{2}=\frac{2}{4}}$だからです。かつて、この単元をある小学生と学んだとき、「比が等しい」ことで私がテストを出すなら「${1:2=2:x}$で、${x}$はいくつでしょう」とかより「比が等しいとはどういうことですか。説明してください」と出したいなあ、と申しました。その小学生さんには、その問いは壊滅的な結果を招く(みんなできないだろう)、と言われてしまいました。私もそんな気がします。しかし、教科書にははっきり書いてありますけどね。「2つの比で、それぞれの比の値が等しいとき、2つの比は等しいといいます」と。つまり、先述の問いには「比の値が等しいことです」と答えてくださればマルです。

というわけで${5:5=50:50=1:1}$であり、${1:2=2:4=3:6}$ですが、これはきちんと「近いものが近い比の値をとる」ようにできています。しょうゆと酢を混ぜてぎょうざのたれを作るとき、${1:1}$と${6:5}$の比で混ぜた場合、同じような味がするでしょうが、その小学校の教科書にも載っている「簡単な整数の比で表す」ということで言いますと、${1:1}$と${6:5}$と、${101:100}$は、だいぶ見た目が違う気がするとも言えます。しかし、比の値では、${\frac{1}{1}=1}$と${\frac{6}{5}}$と${\frac{101}{100}}$はだいぶ「近い」値を取っているとも言えます。「比」全体には位相が入っており、比全体が位相空間をなしているのです。(「近い」「遠い」の概念があります。ぎょうざのたれの話では「似ている味」と「似ていない味」があるということに対応します。)

さて、このように2次元の平面から原点を除いたものに、同値関係を入れますと、同じとみなされる点は、${(1:2)}$と${(2:4)}$のように、平面上で、原点を通る同一直線上にあります。この場合、原点を通り、傾きが${\frac{1}{2}}$であるような直線上にある点が、原点を除いて同一視されることになります。これは、言いかたを変えると以下のようになります。「2次元の平面において、原点を通る直線全体のなす空間」。(「空間」と言って難しさをお感じになったかたは「集合」と読み替えていただいて大丈夫です。位相が入っていますので、「位相空間」というつもりで「空間」と書きました。)

これは、射影直線というものになります。すみません。私は射影直線について不勉強で、ここ1年以内で、Quoraにおける賢い先生から教えていただいたものです。私は、${0:1}$という比の「比の値」は${0}$と考えられても、${1:0}$という比の「比の値」は考えられないというぽんこつでした。その先生には感謝し、以下に話を続けますね。

さきほど「比の値」と言いましたものは、「右に${2}$行き、上に${1}$行く」ということであれば、「傾き${\frac{1}{2}}$の直線の傾き」ということになります。つまり、その直線が${x}$軸の正の向きとなす角を${\theta}$(${-90^{\circ}<\theta<90^{\circ}}$として)とすると、比の値(傾き)は${\tan\theta}$となります。(三角ですね。「比」ですね。)ですから、比の値は実数全体の値を取るようであり、じっさいそうですが、これだと表せない比がひとつだけあります。${1:0}$です。(実際には「百ゼロ」ということもあるように、そういう比はあります。)これは、位相的には、直線に無限遠点が1点だけ付け加わります。実数で${0}$の逆数だけなかったように、また、同じことですが、${\tan 90^{\circ}}$はなかったように、1点だけなかったケースはよくあったものです。「2次元の平面上において、原点を通る直線全体」といって、傾きで表せないものがひとつだけありました。原点を通り、${x}$軸と垂直な直線です。これも含めるわけです。これで、原点を通る直線すべてと、比の全体が同一視できます。これを先述の通り、射影直線と言うのでした。位相的には、円${S^1}$と位相同型になります。ただし、原点中心、半径${1}$の円を二重被覆しています。1日24時間で原点を中心に反時計回りに1周するならば、射影直線は12時間で1周します。円が円を二重被覆しています。

ここから、このブログの題である「三連比と射影平面」の話になるつもりです。私は、射影直線を知らない不勉強者でしたが、射影平面は知っております。学生時代は位相幾何学でした。射影平面は、向き付け可能でない2次元の閉多様体の一種でした。その定義はいくつもありますが、どれも同値であり、ひとつはっきりした定義として、3次元空間において、原点を通る直線全体のなす空間、と捉えることができました。これは、三連比のなす空間、と言ってもよいです。${1:2:\sqrt{3}=2:4:2\sqrt{3}}$ですよね?三連比の3つの数にすべて同じ数をかけた比を「同じ比」とみなすならば、三連比の全体は、3次元空間において、原点を通る直線全体のなす空間だとみなせます。(「集合」だと思ったうえで、位相が入っていて位相空間だとみなせます。直線に「近い」「遠い」があるからです。)これは、射影平面です。

射影平面は、原点が中心で、半径が${1}$の球面を二重被覆しています。ここまでは射影直線のときと議論がパラレルですが、ただし、位相的には、射影平面は球面とは位相同型ではないわけです。(射影直線は円と位相同型でした。)

「比と射影直線」までは、高校までの数学をご存じのかたであるなら、読めるような記事として書いて参りました。ここからは、射影平面という、大学で学ぶような内容となりますので、すみませんが少し厳密さを犠牲にした記述とさせていただきたいと思います。射影平面の定義であれば、おそらくインターネットにいくらでも解説があることでしょう。私もひとつだけ例を挙げるならば、メビウスの帯(メビウスの輪)の境界は円(${S^1}$)であり、円板(disk。${D^2}$。円の内側まで含めたもの)の境界も円であり、これらをはりあわせてできる図形が射影平面です。(3次元ユークリッド空間では実現できないため、そのままでは―こういう議論に慣れておられないかたには―イメージするのが困難ではないかと思います。射影平面が3次元ユークリッド空間に埋め込めないことの証明は、松本幸夫「多様体の基礎」の巻末付録Bに載っています。)

同じように考えますと、${n}$連比の全体のなす空間は、${n}$次元ユークリッド空間における原点を通る直線のなす空間と同一視でき、${n-1}$次元の射影空間とみなせると思います。これも、専門的な解説はいくらでもあることは、たったいまちょっとインターネット検索をして見ました。しかし、(私のこの記事がそうであるように、)厳密に書こうとすると難しくなり、簡単に書こうとすると少し無理が生じる、というジレンマに陥るもののようです。詳しくお聞きになりたいかたは、どうぞお気軽にお問い合わせをくださいね。ご相談は無料です。お待ちしております。最後は教室の宣伝となり、申し訳ございませんでした。本日、「比」と「射影空間」(射影直線、射影平面)との関係を述べられるのはこのへんまでとなります。本日の記事も長かったですね!ここまでお読みくださり、ありがとうございました。おつかれさまでした!

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