最低賃金が上がると物価が上がる議論はおおまかにはそうであるがそれには誤差があり、実はその誤差は大きく、それを皆さん「儲かった」「損した」と言っておられること

半年くらい前(2024年)、衆院選の前に、各党が、最低賃金を(現在のだいたい時給1,000円から)1,500円に引き上げる、とおっしゃっていたころの話になります。そのころ私は、「最低賃金1,500円とはなんのことか」という当教室のブログ記事を書き、2024年11月4日に公開させていただきました。そのときの議論はすぐに振り返りますが、その議論を軌道修正させる記事です。そのときの議論は、「最低賃金が上がると物価が上がる」というものでした。それはおおまかにはそうなのですが、それには誤差があり、実はその誤差は大きく、それを皆さん「儲かった」とか「損した」と言っておられることに気づいたのです。当たり前すぎてすみません。以下に少しずつ書いて参りますね。

それでは、そのときの議論を少し振り返りますね。そのとき、私はファミリーマートで焼き鳥を買って食べ、そこから気づいた議論です。最低賃金とは、各地で決められた、雇う人が守らなければならないルールで、雇われた人に、最低でも払わねばならない金額のことです。焼き鳥はにわとりでできています。あとに少しずつ述べるつもりですが、私は具体的にどうやってにわとりを飼育して鶏肉として出荷するのか知りません。でも誰かはにわとりを飼っておられるはずなので、そこを仮に養鶏場と呼びましょう。そこに雇われたかたがおられるわけです。養鶏場の主人は賃金を払っておられるわけです。そして、最低賃金がだいたい1,000円から1,500円になるとしますと、人件費が1.5倍になるわけで、そのままでは養鶏場の経営が立ち行かず、やむを得ず養鶏場の経営者は鶏肉の値段を上げるわけです。同様にして、物流と言いますか、鶏肉を運ぶ人の賃金も1.5倍、これを売っているファミリーマートの店員さんの賃金も1.5倍だとすると、最終的に、焼き鳥の値段が1.5倍になるとしか言えない。あくまですべて国内の労働者に頼ったと仮定しますと、この調子で、あらゆるものの値段が1.5倍になるとしか言えない。冷蔵庫も洗濯機もパソコンもスマホも。このようなわけで、最低賃金を1.5倍にすると、物価が1.5倍になるとしか言えない。このように論じたわけです。先ほど述べましたように、これはおおまかには正しいわけですが、かなり誤差があります。それはすでに2024年11月26日公開の記事「どうして東大入試は年々やさしくなっていくのか」でも論じました。これも最後にリンクをはりたいと思います。それでは、どのように上の議論を修正するのか、少しずつ書いて参りますね。

きっかけは、最近、くらげを食べたことにあります。久しぶりに居酒屋で食べたのです。その少しあとに、別の機会で「きくらげ」を食べました。どうも同じようなコリコリした食感であります。くらげときくらげは同じようなものか?これで、自分の無知に気づいたわけです。くらげは例えば海水浴でときどき刺されるあれか。そして、ときどき水族館にもいる。それが食用のくらげだとは思わないが、しかし、きくらげはおそらくまったく違う生物なのだろう。おそらくは食感が似ているからそう命名されたのか?この、自分の無知に気づかされたことにより、以下のことを思いました。

私は、学生時代、教会学校のキャンプの引率で、こんにゃく畑を見たことがあります。こんにゃくとはこんにゃくいもから作られると思います。ときどき「知らない人には、こんにゃくとは、あの三角形のものは木の実であって、あれが木にぶらぶらとなっているのだよと言うと信じるのだ」と言ってげらげらと笑ったり、あるいは、かんぴょうは夕顔の実ですが「かんぴょうは海草だと思っている人がいるのだ」と言って笑っていたりするのです。すべて「その道の人のあいだでは常識のように当たり前であり、その道でない人のあいだでは知られていない」ということであり、世の中のほとんどのことはそうであることに改めて気づかされたわけです。

吹奏楽の世界に、フィリップ・スパークという作曲家がいます。おそらくご存命です。スパークさんは、たくさんのヒット曲を生み出されました。だいぶ前になにかで読んだ記事を思い出します。「フィリップ・スパークは、吹奏楽の世界で知らぬものなし、吹奏楽以外で知るものなし」。これは、スパークの音楽のすばらしさが、業界以外で知られないのは残念である、という文脈で書かれていましたが、先ほどのこんにゃくやかんぴょうと同様、このように多くのことは、その道では当たり前のようによく知られており、それ以外の世界ではほとんど知られていないのでした。

ドラえもんの道具で、「もどりライト」というものがあります。のび太はある日、先生から、いろいろなものの原料を調べて来なさいという宿題を出されましたが、わからなくてドラえもんに泣きついたわけです。そこでドラえもんがポケットから出した道具が「もどりライト」です。ものにその光を当てると、原料にもどるそうです。本にそのライトを当てると、いきなり大きな木になりました!本は紙でできており、紙は木でできているからです。プラスチックの容器にその光を当てると、溶けてしまいました。「石油だからね」とドラえもんは言いました。そこで気づきました。これは五十年くらい前に藤子不二雄さんが書かれたマンガですが、確かに私はプラスチックの原料が石油であることは意識していませんでした。プラスチックやビニールや発泡スチロールをなんとなく混同して、分別してごみに出しているだけでした。そのあと、どのように処理されているかも知りません。小学生であった四十年前、ごみ処理場の見学をしたことを思い出しました。これは考えてみると、のび太の先生のように、世の中の仕組みを知るべく計画された小学校の行事でした。いま私が住むところの近くにごみ処理場(清掃工場というそうですね。これも知らないわけです)があります。今度、見学できるものなら見学してこようと思っています。

それで、藤子不二雄さんのマンガから五十年くらいが経過すると思います。時代はずっと複雑になったと思います。いま、私はスマホに「もどりライト」を当ててみたいです。どのような原料なのか、想像がつかないからです。身のまわりのいろいろなものに、もどりライトを当ててみたいです。

それで、最低賃金の話に戻ります。さきほどの議論で、「すべて国内の労働に頼ったとすると」という条件がありました。これについて、2点、あります。

先ほどの養鶏場の話で言いますと、にわとりのえさはとうもろこしなのでしょうか?これも、にわとりを飼って鶏肉として出荷する仕事をされている人からすると、常識のように知っていることでしょうが、私には想像しかできないわけです。にわとりのえさはとうもろこしであるとしましょう。しかし、国産のとうもろこしは使っていない気がします。先ほどの議論だと、にわとりのえさも国内の労働に頼ったことになりますが、おそらくはもっと安い外国のとうもろこしを使うのでしょう。あるいは、私がついこのあいだ食べた、レンジでチンするエビチリも「エビ(インド産)」と書いてありました。エビでありますから、どなたかが海で捕って来られたのです。しかし、インドで捕って来られた。それを日本まで運んだわけです。これも最近、ビックカメラで買って来た、これは蛍光灯とは言わないのでしょうねえ、昔であれば、「ぴっかんぴっかん!」と言ってつく、蛍光灯でしたが、いまはLEDなのでしょうか、これにも「もどりライト」を当ててみたいです。おそらく原料にしても、たくさんの海外の労働が使われているでしょう。このように、かなり身近に国際社会があることに改めて気づかされました。当たり前なことの連続ですみません。このようにして、コストを抑えている面があるわけです。

もうひとつですが、私は数年前、B型作業所というものを知りました。B型作業所とは、最低賃金を割った仕事をするところです。数年前、障害者として仕事を失い、福祉に頼るころ、作業所にはA型とB型があり、前者は最低賃金がもらえるが、後者は最低賃金を割っている、今後私はそのような仕事になる可能性も高いとよく言われたわけです。それで私もようやくB型作業所というものを知った次第ですが(そのころ最低賃金というものも知りました。とにかく触れる機会がなければ知ることがないのは、さきほどのこんにゃくとフィリップ・スパークの話からも明らかです)、かなりそういう労働は身のまわりでわれわれの生活を支えているのではないか。目に見えるところではないのだろうと思います。「もどりライト」に、原料だけでなく、働いた人まで見える性能があればわかることかもしれません。いろいろな身近な製品の、工場の下請けの下請けか、どのような部品のどのようなところか分かりませんが、最低賃金を割った労働が使われており、それでコストを下げているのかもしれない、と思ったわけでした。

これで、最低賃金についての話(つまり、社会に出ても、必ずしも最低賃金がもらえるわけではないという話でもあります)は一段落し、ここから「相場」という話をいたします。

「相場」というのは「この品物はだいたいこのくらいの値段」とみんなが思っている金額のことです。たとえば、私は買い物をしませんので、ぶどうひと房の相場を知りません。同じくぶどうひと房の相場を知らなかったあるお父さんが、スーパーでぶどうを見て「こんなにするのか。高いな」と言って奥さんとお嬢さんから「これはかなり安いほうだよ」とたしなめられる話を読んだことがあります。

小さいころ、お年玉をもらいました。相場はだいたい1,000円くらいで、3,000円が入っていると多くて喜んだものです。あるとき、遠い親戚らしい人のところへ行きました。地理的にも遠く、方言が強くておっしゃっていることもほとんど分かりません。そのおじさんは、しばらくして、どうやらお年玉をくださろうとしているみたいでした。くださったお年玉は、30,000円でした。あとで親に取り上げられましたが、これも考えてみると相場です。1,000円が相場の土地で、30,000円のお年玉は高すぎ、お年玉が30,000円の相場の土地では、1,000円だと安すぎます。この場合、お年玉の相場に根拠はないと言えます。

イスラム教の女性が、夏でもベールをかぶっておられることについて「暑いとは思わないのですか?」という質問に、日本人のイスラム教の男性が答えている本を読んだことがあります。「日本のビジネスマンが、夏でも背広を着ているのと同じで、みんなそうしているから、それが当たり前だと思っているのです」ということでした。おそらくは「暑いなあ」と思っておられるかもしれませんが、みんなそうしているので当たり前なのです。確かに30,000円のお年玉は高いなあと思っておられるかもしれません。お正月は出費が大変だ。結婚式のお祝いも高いなあ、と思っても、結婚式のお祝いで、1,000円というのは「非常識」だからしかたがありません。

私は、2022年に、「採譜(さいふ)」という仕事をしていました。音源から正確に楽譜に起こす仕事です。いまでも店じまいをしたわけではありません。耳で聴いた音楽を正確に楽譜に起こせるという突拍子もない特技を生かした仕事です。この採譜というのは特殊すぎて、相場がありません。ある自営業の先輩から、その地の最低賃金で考える、と言われたことを参考にしました。2019年に友人のために楽譜に起こした久石譲さんのヴァイオリンとピアノのための「風のとおり道」のときにかかった時間を参考にしました(そのときの楽譜と音源をセットにした動画も最後にリンクをはりますね)。3分ちょっとの音源で、12時間くらいを要しました。時給1,000円だとすると、これくらいの楽譜が、12,000円はすることになります。多くのご依頼者様は、びっくりして去って行かれることが多かったです。通常の「楽譜の相場」よりずっと高いからです。楽譜は1曲、何百円かだと思います。それで12,000円は高すぎるわけですが、ただし私の「採譜」というのはオーダーメイドで、世界にひとつだけの楽譜の出版をしているわけで、もしこれが100部売れたら、120円でいいわけです。単純計算ですが。

それで、私の住まいの近くにもパン屋さんがあります。だいたい、1個で、100円とか200円とか、300円とかします。これらに根拠はないことに気づかされました。みなさんパンとはそのくらいの値段だと信じているだけです。以前、オーケストラの演奏会で、チケットが2人で4,000円する話(それはなににどれくらい使われているか、アマチュアオーケストラながら経験があり、少し想像がつく)と、マンションがどうして何千万するか、それは知らない、という記事も書きました。これらも「相場」であり、皆さんオーケストラの演奏会はそれくらいする、とか、マンションはそれくらいする、と信じているだけです。(その記事は、2024年5月29日公開の記事「ローンの謎。ローンって将来の自分の労働から借りているの?」です。それも最後にリンクをはりますね。)じっさい、私は東大オーケストラのツアーに行ったことがありますが、その土地によって演奏会の相場は違いました。たとえば、プロのオーケストラの演奏会の相場が2,000円の土地で、アマチュア学生オケである東大オケが、2,000円に設定することはできません。その土地、その土地で、入場料は違ったわけです。(習志野、新宿、名古屋、尼崎、広島、福岡と行きました。1995年のことです。)それで、再びパン屋さんに例を戻しますと、おそらくはパンを1個、10円か20円で売ったら、赤字になってつぶれるのだろうと想像しますが、ただし、パンが200円、300円するというのは、相場でしかなく、どれくらい費用がかかって、どれくらいがパン屋さんの儲けであるのかはわからないわけです。パン屋さんには、おそらく大きなオーブンがあるのでしょう。私は紙とえんぴつがあればできる「数学」という仕事をしていますが、多くの自営業の皆さんは、なんらかのお金のかかる道具をお持ちです。楽器の演奏家であれば、非常に高価な楽器を所有されていますし、お医者さんも、高価な医療機器をお持ちです。皆さんおそらくは独立(開業)するときにローンで買われたのだと思います。パン屋さんであれば、そのオーブン、そして店舗そのものに、どれくらいローンを払っておられるのかわかりません。「パン屋さんのオーブンの相場」もあるでしょう。これも「その道の人は誰でも知っている話」であるはずで、パン屋さんは、パン屋さんのオーブンの相場はよく知っておられるはずです。そのパン屋さんのオーブンに「もどりライト」をあてると、さらにいろいろなことが分かるはずです。そのようなわけで、相場はみんなで信じているだけでした。

これもドラえもんですが(ドラえもんの例が多いのは、藤子不二雄さんの賢さを物語っています)、のび太が歩いていて、まどから「きみ、きみ」と声がします。トイレで紙がなくて往生している人がいたのです。のび太が助けると、その人はおもちゃ会社の社長さんであり、のび太に立派なおもちゃをくれました。このように、どのようなお金持ちであっても、トイレットペーパーに頼っています。もし、トイレットペーパーを売る人が、1個5,000万円で売っておられたら、それは5,000万円を払って買わざるを得ません。さもなけば、自分で木を切り、紙をつくり(どのように紙をつくるのか、私は知りません。これも私は小学生だったときに、和紙をすくところを見学したことがあります。小学生のときのこのような勉強は、世の中がどうできているか、どこでどんな人が働いているのかという勉強でした)、それでトイレットペーパーをつくるしかありません。そしてそれを流すとき、上下水道の人が、すべて自分で流して始末してください、さもなければ水道料金として、1億円をいただきますと言われれば、1億円を払うしかないです。お風呂を入れるにしても、水を川からくんで来なければなりません。川から水をくむにしても、バケツそのものから作らなくてはならないかもしれません。確かにいま八十代のかたは、若いころ、薪を切って火をつけてお風呂を炊いておられたと聞きます。

これでだいたい、以前の最低賃金が上がると物価が上がる話の、誤差の話を終わりです。このように、世の中は「儲かった」「損した」というふうにできているという、当たり前のことに気づいたわけです。

それにしても、ここで金額だけ稼ぐのは「お育ちの悪い」人です。仕事の基本は、人様のお役に立つことであり、金額を稼ぐことではありません。そもそも仕事とは社会の役割分担であり、自分はある仕事をする(お金を稼ぐ)代わり、ほかの仕事は人に頼る(お金を使う)わけです。人生の羅針盤の正常な人は、人様の役に立つ喜びを糧に仕事をしておられ、これが狂った人が、仕事とは金額を稼ぐことだと錯覚するのです。これが悪い意味での「金儲け主義」と言われるものです。私が感じる「優良企業」を2つ挙げます。やよいの確定申告と、ナクソス・ミュージック・ライブラリです。やよいさんは、確定申告のお手伝いをするべく働いておられ、私もおおいに頼っていますが、ありがたいです。ナクソスさんは皆さんに音楽を届ける仕事をしておられ、これもすばらしいと感じています。この近所では、眼医者さんと歯医者さんがすばらしいです。星くず算数・数学教室も見習いたい姿勢です。まじめにこつこつ働き、小さな幸せを喜ぶ人間でありたいです。くらげを食べ、きくらげを食べて思ったことでした。

以下に4つのリンクをはります。

2024年5月29日公開の記事「ローンの謎。ローンって将来の自分の労働から借りているの?」

2024年11月4日公開の記事「最低賃金1,500円とはなんのことか」

2024年11月26日公開の記事「どうして東大入試は年々やさしくなっていくのか」

そして、2019年12月25日に12時間かけて完コピした久石譲さん作曲の「風のとおり道」の動画です。

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