お金を割合で表す謎

小学校5年生の算数の教科書に載っています。「2mで96円のひもの1m分のねだんは何円ですか」。これは、96÷2で48円と出させたうえで、「では、2.4mで96円のひもは、1mあたりいくらか」を問うものですが、まず、ここまでの教科書の経緯を書かせてください。

まず比例を導入します。1個の高さが3cmのれんがは、2個積むと高さが6cm、3個積むと高さが9cmです。高さはれんがの個数に比例していると言って「比例」を定義する箇所なのですが、その直後に、1mで80円のリボンが、2mでいくらかという話をし、ついで1mで80円のリボンが、2.3mでいくらか、という話になり、「小数のかけ算」への導入としているわけです。(れんがの2.3個はあり得ないところがミソです。うまくれんがで比例を導入し、すぐにリボンの話にした。)私はリボンの相場は知りませんし、だいたい1mで80円のリボンにしても、2.3mで売ってもらえなさそうな気はします(3m買ってくださいと言われそうな気がします)。それらの計算をすべて認めて来たうえで、「小数のわり算」を導入するところが、上記の「2mで96円のひも」の話であったわけです。すべて比例しているわけですが、ほんとうでしょうか。

ひもといってもどんな材質のどういうひもかわからないので、具体性はないわけです。ただ、96円というのは、手間賃であることがわかります。教科書に描いてある絵のように、ひも屋さん(?)の手間賃、仕入れ、運んだ人の手間賃、すべては手間賃です。もともとの材料がなにか、わかりませんが、結局、最後は羊毛ならば「羊そのもの」は神様しか作れませんので、やはり96円のすべては手間賃であると言えましょう。すると、1mのときの手間賃が、2mのときの手間賃の半分であるとは言えないであろうことは容易に想像がつきます。もしかして1mのひもは48円よりも高いのではないでしょうか。

私の近所の薬局では、税込みで105円のアイスが売っています(「スーパーカップ超バニラ」です)。これは、2個で210円です。しかし、3個で315円ではないのです。3個だと少し割引されます。こういう売り方はしばしばあるものです。(私の住む土地の地下鉄は、1駅で210円ですが、2駅で420円にはなりません。ほかもろもろ。)私は発達障害特性から、3個のものを運ぶとき、しばしば3往復してしまいます。一度にひとつのことしかできないのです。これで事務員時代はずいぶん叱られたものです(当時はそれが「本業」でしたから本気で悩んだものです)。しかし、アイス1個を運ぶのと、3個運ぶのとで、3倍の手間がかからないとしたら、それは比例しなくて自然であると言えましょう。

こういう小数のわり算があまりに人為的に作られた教科書の問題なので、最近、ほんとうに計算した例を挙げます。私は採譜(耳コピ)もお小遣い稼ぎ程度にやっていますが、最近、JASRAC国外作品のご依頼がはじめてマッチしたのです。JASRACには国内作品と国外作品の区別があります。国内作品のほうがずっと安いです。売り値の10パーセントが著作物使用料となります。これを例に取っても充分に「お金の割合」の話になりますが、せっかくなのでその最近の国外作品の例とします。その外国の曲は、調べてみますと、著作物使用料が15,000円でした。(正確には「15,000円以内」ですが、簡単のために15,000円とします。)これは、たとえば私が売り値(今回の場合それがほとんどそのまま収入になります。仲介手数料がない場合でしたので)を18,000円としたら私の収入は3,000円であり、売り値を30,000円とすると、私の収入は15,000円となります。単純に引き算なのです。ところが、正確には「売り値の20パーセントと、15,000円の、高いほうを著作物使用料とする」という話なのです。さて、売り値がいくらより高いと、著作物使用料が15,000円から変動するでしょうか?

これは、15000÷0.2で、75,000円を超えると著作物使用料が売り値の20パーセントとなることがわかります。ようやく「小数のわり算」の、少しまともな例が出せた。しかし、これでいいのか?

先ほどから見ています通り、お金はおしなべて手数料ですから、個数と単純に比例はしないものです。スーパーなどで野菜やお魚の値段が変わるのも、どれだけ穫れたかによるのであると考えられます。(野菜そのものや魚そのものは神様にしか作れないところも同じです。)ところが、この小学校算数の教科書の通りに比例しているのが、JASRACのこの計算です。なんだか感覚を裏切られる気がするのは、おそらくそのせいでしょうね。

これの最たるものが消費税です。あれはパーセントで決まっています。税率が上がると、おもに貧乏人(失礼。私もその貧乏人のひとりです)がわあわあ騒ぐ気がするのも、これは貧乏な人ほど苦しくなるから。金持ちは消費税が50パーセントでも余裕だったりするでしょう。私だったら50パーセントは大変だ!(多くの人にとっては大変でしょう。)

というわけで、税金をパーセントで取られてどうもだまされている気がするのは、じつは小学校の算数の教科書からわれわれはだんだんだまされていたのではないか、という気さえするのです。算数の教科書でお金の初出は、小学3年生のわり算のところ「3個で60円のチョコレートは1個いくらでしょう」というところであるように(小学校の算数の教科書を私が読んだ結果)思えます。そもそもこの問いは、「同じチョコレート」と言っていないので、1個あたり同じ手間賃とも言えないのですが(チロルチョコでも種類によって本当は手間は違うでしょう)、それでもそう言っています。イラストでは3個のチョコが袋に入っています。逆に袋代もあるでしょうね。そして、ここまで述べて参りました通り、そもそも3個で60円のチョコは、1個20円で買えない可能性が高いのです。(3個でお買い得で60円である可能性が高いですからね。)

だいぶわれわれはだまされているのかもしれませんね。そんなことを思わされる算数の教科書の話でした!

目次