伝説のフルート奏者マティアス・リュッタースの1997年の来日公演を聴いた

これは、またクラシック音楽オタク話です。しかし、非常にいいものを聴いた話ですので、よろしければどうぞお読みくださいね。

マティアス・リュッタースというフルート奏者の名前はほとんど聞くことがないと思います。1997年当時の私もまったく知らない名前でした。しかし、じつは業界では極めて有名なベテランのフルート奏者だったのでした。私はある日、レッスンで先生からこの演奏会のお誘いを受け、リュッタースの東京公演を聴いたのでした。

その日のプログラムを見ますと、マティアス・リュッタースは、クルト・レーデルや、ハンス=ペーター・シュミッツに師事していて、ベルリンフィル、西ドイツ放送交響楽団で吹いていたことなどが書いてあります。生まれた年が書いてありませんが、そのとき先生に聞いた話では、当時、70代であったようです。(ということはおそらく1920年代の生まれで、たとえばオーレル・ニコレらと同年代ということになります。)ベルリンフィルに在団した期間は短く、3年間くらいであり、以下のかたのブログ記事では、カール・ベーム指揮ベルリンフィルの1959年録音のブラームスの交響曲第1番のソロがリュッタースであるようです。

長く西ドイツ放送交響楽団(ケルン放送交響楽団)で吹いておられたようで、当時このオーケストラはあまりレコードを出すオケではなかったこともあってか、リュッタースは日本では有名でないのでしょう。検索すると、リュッタースに師事したおもに日本のフルーティストの師事歴がヒットするという感じですね。

その日のプログラムを書きます。フルート四重奏の夕べでした。

クロマー フルート四重奏曲ヘ長調 op.17

モーツァルト フルート四重奏曲ハ長調 K.285b

プレイエル フルート四重奏曲ヘ長調 op.25-2

モーツァルト フルート四重奏曲ニ長調 K.285

マティアス・リュッタース(フルート)
山口裕之(ヴァイオリン)
川崎和憲(ヴィオラ)
木越洋(チェロ)

弦楽器の3人の先生は、いずれも当時のN響の首席奏者の先生がたです。川崎先生は、私のある友人の学生オケの指導者であられました。

この日のプログラムは残っており、また、日記も残っており、記憶も残っており、さらにはこの日の演奏が3年後にCD化されたCDも持っていますが、いずれも、マテキフルートというフルートのメーカーさんが主催した演奏会、また、マテキフルートが出したCDであり、今回、この記事を書くに当たり、ムラマツ楽器に電話で聞いたところ、マテキフルートさんは数年前に廃業なさっており、これらのプログラムの表紙およびCDジャケットなどの著作権がいまどうなっているのか、わからない次第です。ムラマツさんのほか、ミヤザワフルートさん、サンキョウフルートさん、ふれえてはうすテオバルトさんにも電話でお聞きしましたが、マテキフルートさんの廃業は突然であったということで、誰もマテキさんに連絡がつかないのでした。CDジャケットにはリュッタースさんのフルートを構えたかっこいい写真が載っていたりするのですが、このブログ記事で使うのはやめておきますね。(残念です!)

この1997年の4月というのは、前の年の4月に東大オケをやめ、ついで統合失調症の最初の症状を出し、1年間、学業と音楽活動を休んで、学業と音楽活動に復帰するタイミングでありました。前の日にチケットを2,400円で買っています。そして、当日は、午前中に池袋に行ったり、小石川植物園で満開の桜を見ていたり、フルートの練習をしたり、新しく入った社会人オケのフルートのパートリーダーさんから呼び出しの電話をいただいたりしたあと、王子の北とぴあへ都電で行っています。先生と合流しました。私と同様に、先生から誘われた同門のお弟子さん(のちにプロになられたかたも含む)とご一緒になりました。

会場では、よく知っているある少し年上のプロのフルートの先生にもお会いしました(日記によると会釈しただけのようです)。いろいろな人が集まっているようで、先生から「あのかたが西田直孝先生だよ」と言われたりしたのも覚えています(西田先生は著名な日本のフルートの先生です)。いろいろなフルート業界のかたが客席を埋めておられたのでしょう。とにかく伝説のコンサートを聴いたことになります。

1曲目はクロマーのフルート四重奏曲ヘ長調でした。先生は「この曲をきっかけにフルートを習い始めたという人がいるんだ。ぼくも聴いたことのない曲だから楽しみだね」とおっしゃっていました。始まってすぐに気が付くこと。すごい表現意欲!

先ほど書きましたように、リュッタースさんは当時、70代でした。フルートなど管楽器は、60歳を過ぎると衰えることが多々、あります。リュッタースさんは、エネルギッシュでした。とにかく表現の幅がすごいのです。日記には「とてもすばらしかった」とだけ書かれています。弦楽器の3人の先生は、いずれも日本を代表するようなオケマンであられましたが、ちょっと弦楽器の皆さんがおとなしく思えるくらいに、リュッタースさんの表現意欲の強さは圧倒的でした。これはすごい!

つぎがモーツァルトのハ長調、休憩をはさんで、プレイエルのヘ長調でした。これも知らない曲です。そして最後がモーツァルトのかの有名なニ長調の四重奏曲でした。すばらしい!

このニ長調の四重奏曲の第2楽章は、フェルマータで終わります。リュッタースさんは、以下の譜面のような、短いカデンツァを吹かれました。極めて印象的でした。これは、のちにCD化されて、そこからいま、楽譜に起こしましたので、さすがに1回しか聴かなかったカデンツァの採譜はできないです(笑)。

演奏を終えたリュッタースさんは、弦楽器の皆さんと並んでお辞儀をなさいました。アンコールは、日記には詳述してありませんが、後述のCDから、モーツァルトのト長調の第1楽章であったことがわかります(たぶんこの1曲だけか?そこだけ正確にはわかりません)。

この日は、先生が回転寿司をごちそうしてくださいました。ほかのお弟子の皆さんと楽しくお寿司をいただきました。

この時代はインターネットがほとんどありません。YouTubeなどSNSもない時代です。私は、生で一度だけ聴いたクロマーとプレイエルを、もう1度、聴きたいと思いました。近所によく行く図書館があり、そこで何度もリクエストを出しましたが、入る見込みはないのでした。そもそもこの2曲は珍しすぎて、CDは出ていないのではないかと思われました。そうこうしているうちに3年くらいが過ぎ、なんとこの演奏会(の一部)はCD化されました!結局、私は、まさにそのリュッタースさんの王子でのライヴ録音のCDでもって、クロマーとプレイエルの2曲に再会したのでした。

収録曲は以下です。

クロマー フルート四重奏曲ヘ長調 op.17

プレイエル フルート四重奏曲ヘ長調 op.25-2

シュターミッツ フルート独奏のための8つのカプリスより
 第4番イ長調
 第5番イ短調
 第6番イ長調

モーツァルト フルート四重奏曲ニ長調 K.285

モーツァルト フルート四重奏曲ト長調 K.285aより
 アンダンテ

マティアス・リュッタース(フルート)
山口裕之(ヴァイオリン)
川崎和憲(ヴィオラ)
木越洋(チェロ)

このうち、シュターミッツだけ、この王子での録音ではありません。「in 沖縄」とだけ書かれています。シュターミッツという作曲家は複数人いますが、CDによるとアントン・シュターミッツの作品です。

私はこのCDを2000年8月31日に新宿のムラマツ楽器で買いました。当時のレシートが残っています。3,150円しています(消費税が5パーセントの時代でしょうね)。その日の日記を見ますと、ムラマツでCDを買い、おつりで二千円札が出たこと、およびその日、カットモデルをしていた美容院で交通費の500円をもらったら新五百円玉だったことなどが書いてあります(ミレニアムに、二千円札というのが出たのです。2000年だからそのころですね)。生で聴いてから3年半くらい経過しての再会でした。

この3年半は大きいですね。生で聴いたときは、1年間の学業の休みから復帰する学部3年生の頭のころで、まだ多様体も群も習っていません。2000年の8月というと、もう大学院の修士課程の2年生であり、修士論文の骨子は出来上がっているころです。1997年はまだ教会ではモグリであり、2000年は洗礼こそ受けていないものの教会学校スタッフと青年会長をしていました。激動の3年半であったと言えましょう。

そのクロマー(クロンマー)のフルート四重奏曲は、2024年現在、ペーター・ルーカス・グラーフの演奏で、ナクソス・ミュージック・ライブラリで聴けます。先ほど聴きました。30年近いときを経て、ようやくリュッタース以外の演奏でこの曲を聴きました。当時は、こういうことはできなかった代わりに、音楽に対する純粋な感動は大きかった気もしますね。(プレイエルはちょっと見つからないですね。)

モーツァルトのフルート四重奏曲ニ長調は、しばしば生で名演奏を聴く機会がありました。このリュッタースのほか、寺本義明さんら都響の皆さんの演奏(ブログ記事にしたことがあります。最後にリンクをはりますね)や、私の先生の演奏も聴きました。アマチュアでは、高校のときの先輩がたの演奏、また、大学オケの同輩の演奏(うまかった!)などを聴きました。私自身も2回ほどやる機会がありましたが、逃してしまいました。やればよかった!(代わりに私は大学1年のときに東大オケの室内楽で、ハイドンのフルート四重奏曲ト長調op.5-4をやりました。これまた極めて珍しい曲で、当時はほとんどCDがなかったものです。)

モーツァルトのフルート四重奏曲ニ長調のCDは、これのほか、大学オケ時代から、オーレル・ニコレとミュンヘン弦楽三重奏団のものを持っています。それはモーツァルトの4曲のフルート四重奏曲が1枚に収まったもので、これも極めてすばらしいものです。のちにパユのCDも買いましたが、私にとって、最も好んで聴くこの曲のCDは、このリュッタースの東京ライヴです。それくらい、この演奏はすばらしいです!生演奏のため、たまに演奏上の傷はありますが、それを上回る表現意欲とライヴの熱気を帯びたすばらしい演奏なのです。生で聴いたときちょっとおとなしすぎると思えた日本の弦楽器の先生の演奏も、改めてCDで聴くとすばらしいです。

ここに含まれる拍手の音には、私の拍手も含まれるはずですね。当日の聴衆の皆さんの感激の伝わるあたたかい拍手です。

というわけで、伝説のフルート奏者の演奏会を聴いたブログ記事でした。当日のパンフレットおよびCDのジャケットが使えないのが残念!たいがいは、許可を得ようとその会社に電話をするとすぐに「いいですよ」と言ってもらえるのですが、今回はそういうわけに行きませんでした。もう少し早くこの記事を書くべきだったかもしれませんね。以上です!

(最後に、寺本義明さんほかの演奏でモーツァルトのニ長調を聴いたときのブログ記事のリンクをはりますね。この8年後です。)

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