ご自分が筆算の手順を信じているだけで理由を知らないことをはっきり認識なさった小学生の生徒さん

また、当教室での授業の様子をご紹介いたしますね。掲載に当たりご本人と親御さんの許可は得ています。

当教室に、今年度(2023年度)の頭から入門なさった小学3年生のお子さんです。最初に親御さんから私が見たのは、塾のプリントでした。「以下の分数を約分しなさい。なるべく1回で約分しなさい」と書かれていました。「なるべく1回で」というのは、その分数が2で約分できて、また2で約分できるな、というふうにやるのではなく、最初から4で約分しなさい、という意味でしょう。最初の問題は忘れもしない、${\frac{6}{15}}$でした。これが1枚に何問もあり、これが1週間に何枚も出るそうです。私は気が遠くなりました…。

その生徒さんとは半年以上のお付き合いとなりました。礼儀正しいお子さんです。小学3年生の教科書に沿って、ご一緒に勉強をして参りました。その生徒さんの顕著な特徴として、計算結果だけ異様にすばやく正確に出るというものがありました。それにはうすうす気が付いていましたが、どうしたらよいのか、私にもわからないまま、半年以上が過ぎました。

3年生の教科書の下巻で、かけ算の筆算を学ぶところに来ました。教科書には、1箱12本入りのえんぴつが、4箱あると、ぜんぶで何本あるか、という問いが載っていました。その生徒さんにおたずねしますと、12×4=48とお答えになります。いきなり答えが出てしまうのです。なぜ48になるかおたずねしますと「普通に」とお答えになりました。そこで、私がなぜ12かける4は48になるか、理由をおたずねしますと、「4を2にかけて8になり、つぎに4を1にかけると4になるから」とお答えになります。「それは、手順を説明しているだけで、理由の説明にはなっていないでしょう」と私は申し上げました。しかし、ご本人は、何度、私がおたずねしても、同じようにしかお答えにならないのでした。親御さんも「オンラインの限界ではないか」とメールに書かれました。しかし、以下のような突破口があったのです。

あるとき、私はその生徒さんに「子どもたちにいじめられているかめを助けたら、そのかめに連れられて、竜宮城に着き、乙姫様がいた、というのは本当か」とおたずねしました。その生徒さんは「それは昔話だから」とおっしゃいました。私が「つるを助けたら、ある日、女の人が来て、織物を織ってくれたが、それは実はつるだった、というのは本当か」とおたずねしますと、その生徒さんは「つるが人間に化けるとは思えないから、それはうそだと思う」とお答えになりました。つぎに私が「七夕で短冊を書いたら願い事がかなうのは本当か」とおたずねしました。その生徒さんは「前に『コロナが収まりますように』と書いたら本当に収まったから本当だと思う」とお答えになりました。そして私が、ご自身の行ったことのない国をおたずねしますと、オーストラリアとお答えになりました。私もオーストラリアは行ったことがありません。オーストラリアという国は本当にあるかどうかおたずねしますと、あると思う、世界地図に載っているから、とお答えになりました。私は、それでは世界地図を信じているのですね、と申し上げました。その生徒さんは、数か月前に、お父さんがインドに出張なさったことをおっしゃいました。その生徒さんも、私も、インドは行ったことがありません。お父さんがインドに行ったことは本当かおたずねしますと、おみやげを買ってきてくれたから本当だと思う、とおっしゃっていました。

そこで改めて、12かける4が48になることは、理由を納得なさっているのか、それとも大人から教わった手順を信じているだけなのか、おたずねしました。その生徒さんは、後者であるとお答えになりました。ご自分が当たり前のように信じている筆算の手順が、じつは大人から教わったことを丸のみにしているだけであることをはっきり認識なさったのでした。

これは大きい気付きではないかと私は思いました。いわば「洗脳」からの脱却の第一歩です。これから、その生徒さんとは、小学2年生で、はじめて筆算を学ぶところに戻る予定です。本稿執筆時点で、それが次回です。いよいよこの生徒さんとの本当の学びが始まるようで、私も楽しみです。ありがたいことです。このあと、この生徒さんとの授業がどのように進んでいくのか、わかりませんが、一歩一歩、いままで当たり前だと思っていたものの理由を明らかにしながら、進んで行きたいと願っています。

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