ストコフスキー指揮によるショスタコーヴィチ交響曲第6番のステレオ再録音

これはまたクラシック音楽オタク話です。かなりマニア度が高いかと思います。それでもよろしければどうぞお読みくださいね。当教室のブログではもう少しいろいろな記事もございます。

私がレオポルド・ストコフスキー(1882-1977)という指揮者に「目覚めた」のは高校3年のとき、高校でムソルグスキー=ラヴェルの「展覧会の絵」をやることになったときでした。ストコフスキー編曲・指揮の「展覧会の絵」のCDを聴いてたまげたのです。当時はインターネット等もほとんどなかったものです。YouTubeなどSNSもまったくありません。大学1年になった私は東京に出て、田舎と比較にならないほどの情報が東京にはあり、CDもたくさんあることに驚いて、ますますストコフスキーにハマって行きました。48歳になるいまも、ストコフスキー一筋です。そんな私が1997年ごろ購入したCDの1枚について書きます。ストコフスキーが1968年にシカゴ交響楽団に客演してビクターが録音した、ショスタコーヴィチとハチャトゥリアンのアルバムです。内容は以下の通りです。

ショスタコーヴィチ 交響曲第6番ロ短調

ショスタコーヴィチ 「黄金時代」組曲

ハチャトゥリアン 交響曲第3番

レオポルド・ストコフスキー(指揮)

シカゴ交響楽団

1968年2月

このレコード録音と並行した演奏会が、1968年2月15日、16日にシカゴで行われています。演奏会のライヴ録音も残りました。15日の演奏会のすべてが残りました。

ストコフスキーはショスタコーヴィチの交響曲第6番はアメリカ初演しています。世界初録音もしています(フィラデルフィア管弦楽団、1940年12月)。それだけでなく、この作品は、生涯、得意にしました。おそらくストコフスキーが最も多く取り上げたショスタコーヴィチの交響曲は第5番でしょうが(そのほか、自身の編曲による前奏曲変ホ短調はたくさん取り上げました)、それについで、第1番と第6番の演奏頻度は高かったです。1962年の10月15日のアメリカ交響楽団を立ち上げて最初の演奏会でも第6番を取り上げています。(ちなみにアメリカ交響楽団の、そしてアメリカでの最後のコンサートである1972年5月7、8、9日の演奏会では交響曲第5番を取り上げました。)私のストコフスキー歴30年の経験からしても、ストコフスキーが生涯に2回以上、正式な録音をした楽曲は「得意中の得意」です。このショスタコーヴィチの交響曲第6番は、得意中の得意なのです。

その、フィラデルフィア管弦楽団を指揮した1940年の録音も、極めてすぐれた出来栄えで、同じころの交響曲第5番とともども、2024年現在、新譜として登場したら大騒ぎが起きること間違いなしの驚くべき演奏です。世界ではじめて録音するストコフスキーの読譜力、音楽への理解力の深さに、心底、驚嘆せざるを得ないのですが、この、それから四半世紀以上をへてのステレオ再録音では、いよいよストコフスキーの楽譜の読みは深くなり、また、指揮の経験を重ねて、さらに自由度を増しています。1940年のフィラデルフィア管弦楽団のうまさもすごかったのですが、このステレオ再録音のときのシカゴ交響楽団のうまさもものすごいです。この曲にはたくさんのソロが出て来ますが、出るソロ、出るソロ、皆さんものすごくうまいのです。

今回の3曲は、いずれも2024年現在、著作権保護期間にあり、譜例を出すのを躊躇しますが(「引用」であれば著作権の侵害とはならないのですが、自粛しますね)、少しストコフスキーの演奏の特徴を述べますね。この曲は3楽章からなりますが、初演を指揮したムラヴィンスキーの演奏より第3楽章はずっとゆっくりです。ムラヴィンスキーの影響か、2024年現在では、このストコフスキーの演奏よりも第3楽章はずっと速いのが標準となっていますが、ストコフスキーのテンポもまた説得力のあるものです(とくに私はストコフスキーの演奏でこの曲になじんでいますからますますなのでしょうが)。このシカゴ交響楽団を指揮した演奏では、最後に少しテンポの動きもあります。これは同じ1968年のニューヨークフィルのライヴ録音にも言えることです。

ストコフスキーは、ショスタコーヴィチの作品は、この交響曲第6番のほか、先述の第1番、それから第3番、第11番をアメリカ初演しています。ピアノ協奏曲第1番もアメリカ初演しました(ソロはユージン・リスト)。第1番、第5番はベルリンフィルでも取り上げ、また、第11番のモスクワ放送交響楽団のすさまじいばかりのライヴ録音も残されています(ストコフスキーは1958年に単身で旧ソ連に行って旧ソ連のいろいろなオケを指揮しました。そのライヴ録音が場合によっては残されており、そのひとつです)。第10番のシカゴ交響楽団による見事なライヴ録音も残されましたがそれについてはまた機会を改めますね。

私は、ショスタコーヴィチの交響曲第6番は、1回、生で聴いています。1999年にオーケストラ・ダスビダーニャ(ショスタコーヴィチを専門とするアマチュア・オーケストラで、当時、たくさんの友人が参加していました)の第6回定期演奏会のときです。一緒に聴いていた友人が「この曲、2回、やったことがある」と言っており、たまげたことを思い出します。1999年当時、この曲はいまほど人気がある曲ではなかったと思うからです。

「黄金時代」組曲は、ストコフスキー唯一の録音です(先述のライヴ録音を除きます)。この曲も私はもっぱらこのストコフスキー盤でなじんでいます。実は、私はこのCDを購入した1997年の前の年、1996年に東大オケで、「黄金時代」組曲の「ポルカ」を練習しています。五月祭でやる予定だったのですが、私はその年の4月に、東大オケをやめてしまい、翌5月にはいま思えば統合失調症の最初の症状を発症して、1年間、学業および音楽活動を休んだのでした。というわけで、本番は吹いていないのですが、「黄金時代のポルカ」はやる予定になっていて練習もしたわけですので、そのころからなじみ深い曲でした。このCDを買うときも、この「ポルカ」に惹かれた面もあるわけです。もっともこのCDは、当時、ストコフスキーがビクターに残したステレオ録音のすべてを13枚組にしたボックスCDでしたけれども(ばら売りもなされていましたが)。とにかく、思い出の曲でもあるわけです。五月祭の本番は、後輩が演奏するのを客席で聴いたわけでした。

ハチャトゥリアンの交響曲第3番も、ストコフスキー唯一の録音です。この曲もストコフスキーはアメリカ初演をしました。ストコフスキーは、ショスタコーヴィチのよき理解者であったのみならず、ハチャトゥリアンのよき理解者でもあったわけです。ストコフスキーはこのほか、ハチャトゥリアンの作品では、「祝典詩曲」や「ロシア幻想曲」をアメリカ初演しました。また、1947年に「仮面舞踏会」組曲の見事なレコーディングを残しています。1958年には交響曲第2番の録音も残しましたがそれもすばらしいです。ガイーヌはよく取り上げていますが、正式な録音が残らず「レスギンカ」や「剣の舞」の単発の(アンコールでの)ライヴ録音が残っているのみですが、すばらしいものです。ランパルとのフルート協奏曲のライヴ録音もすばらしく、まことにストコフスキーはハチャトゥリアンのよき理解者でした。

この交響曲第3番に戻りますが、これも極めて優れた演奏です。日本語ウィキペディアによれば計18人のトランペットを要し(たくさんのトランペットがいると書きたかったです)、オルガンの長いソロがあります。いわゆる単一楽章の交響曲であり、その意味ではシベリウスの7番や、スクリャービンの「法悦の詩」の仲間とも言えるかもしれません。このストコフスキーの演奏がいかにすぐれているか、痛感した出来事があります。このCDの購入よりずっとのち、いまから10年以内のことだと思いますが、ある日本のオケのこの曲の演奏をYouTubeで聴いたのです。かなりまとめるのに苦労をした様子でした。この曲を整然とまとめ、聴き手に伝える。このことがきちんとできているだけで、ストコフスキーのこの演奏は極めてすぐれているのだな、と思わされます。

先述のライヴ録音でも、ストコフスキーのこの手腕はいかんなく発揮されており、すばらしい演奏が聴けます。私はそのライヴ録音のほうをパソコンに取り込み、授業前の時間調整音楽として重宝しています。「22分タイマー」です。それにしてもシカゴ交響楽団のうまさには改めて驚かされますね。(英語ウィキペディアは録音年を間違えて1969年と書いてありました。)

というわけで購入から四半世紀以上が過ぎ、いまだによく聴くCDです。ストコフスキーがビクターに残したステレオ録音のなかでも出色だと思います。ビクターには感謝せねばなりません。すばらしい音楽にブラボー!

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