「変化の割合」と「最後の晩餐」

小学4年生の算数の教科書に書いてあります。「下の表は、東京とシドニー(オーストラリア)の月別の気温を表したものです。これを折れ線グラフにかいてみましょう」。そして、「東京とシドニーの月別気温(2017年)」という表が載っており、「気象庁調べ」と書いてあります。ここで「月別の気温」とは何でしょうか。知らなかった私は気象庁に電話して聞いてみました。こういうとき、気象庁はすぐに電話に出てくれます。気象庁に限らず、総務省(総務省統計局)であれ、国土地理院であれ、教科書に載っている統計は、調べた省庁に聞いてみるのがいいです。聞くべきことをはっきりさせて聞けば、はっきりした答えが得られますし、それに、例えば国勢調査について総務省に聞いたことは最強です。とにかく、気象庁に聞きました。一日の平均気温のその月の平均であるそうで、一日の平均気温は、一日に24回、一時間に一度、測った気温の平均だそうです。

それで、「月別の気温」と「月別気温」の違いです。これは、同じであった場合に嫌われそうな気がして聞けていませんが、数学では、このように用語が違ったら定義が違うことが普通なので、本当は確認したほうがいいところです。「東京の大学」と「東京大学」は意味が違います。「微分係数」は「微分の係数」とは言いません。同様に、「変化の割合」という言葉はこれ全体で専門用語であり、「変化の割合」の五文字でひとつの語と認識せねばなりません。私の言うことが屁理屈に思えるかもしれないと思い、以下のような例を挙げたいと思います。

「最後の晩餐」をご存じでしょうか。イエス・キリストが、処刑される前夜に、弟子と一緒に囲んだ夕食です。これは、「最後の晩ごはん」と言うと、意味が鮮明になると、今年の5月ごろ、気づきました。「晩餐」は「晩ごはん」という意味ですので、「最後の晩餐」は「最後の晩ごはん」と言っていいはずなのですが、最後の晩餐を最後の晩ごはんと言うことで、意味が鮮明になります。弟子の皆さんが言っているのです。あれがイエスさまとの最後の食事(最後の晩ごはん)となったなあ、と。それで、イエス・キリストが復活していないことが明らかとなります。なぜなら、福音書のその先には、イエスが復活後、弟子と食事をするシーンが描かれているからです。つまり、例の食事が最後の晩ごはんであるなら、イエスは復活していないのです。これで「最後の晩餐」という語は、「変化の割合」と同様、五文字の専門用語として認識されていることに気づかされるわけです。むしろ、イエスは復活したという主張を強固にするため、最後の晩餐という語は五文字熟語と認識されるに至ったのかもしれません。

Ref.

『わくわく算数4上』 (啓林館)

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