新約聖書ヨハネによる福音書は「劇画」のように書かれていることに気づいた

以前、新約聖書の「ルカによる福音書」は、昭和的なギャグマンガの調子で描かれていることに気づいたという記事を書きましたが、本日は、新約聖書でその次に置かれた「ヨハネによる福音書」は、「劇画」(漫画の一種で、リアルな物語性を重視し、写実的な絵によって描き出した、比較的長編のもの)のように描かれていることに気づいたというお話です。

ヨハネによる福音書は、20章で、イエスの復活を描きます。まず、「週の初めの日、朝早く、まだ暗いうちに、マグダラのマリアは墓に行った。そして、墓から石が取りのけてあるのを見た」と書かれています。それで、イエスの遺体がありませんでしたので、シモン・ペトロともう一人の弟子が、それを確認しに墓へ走って行きます。(いきなり少し脱線しますが、この福音書は、ペトロのことをしばしば「シモン・ペトロ」と、フルネームで書きます。この、復活シーンのような終盤でもそうです。「チャーリー・ブラウン」と常にフルネームで呼ばれる人物みたいです。彼を「チャーリー」とは呼びませんし、「ブラウン」では誰のことか通じません。これは、なんらかのネタなのかもしれません。脱線は以上です。)それで、ペトロでないほうが先について墓を見ると、亜麻布が置いてあるのを見ました。そして、ペトロが遅れて到着し、中を見ると、やはり亜麻布が置いてあるのを見ました。このように、この場面だけで、かなり作者は引っ張ります。この場面で新共同訳聖書の半ページが費やされています。

そして、次の段落で、マリアが墓の外に立って泣いていた場面を描きます。天使が二人いて、片方が「婦人よ、なぜ泣いているのか」と言います。この場面も、十行以上を費やすのですが、そこで復活したイエスが「婦人よ、なぜ泣いているのか」と、さっきの天使とまったく同じセリフを言います。作者は引っ張っています。マリアは、彼を園丁(雇われて、庭園の手入れなどをする人。庭師)だと思って次のように言います。「わたしの主が取り去られました。どこに置かれているのか、わたしには分かりません」。この次のシーンですが、園丁が「マリア」と言います。マリアは「先生!!」と言います。園丁だと思った人が、復活のイエスだと気づいた瞬間です。この「マリア」「先生!!」というシーンが、まるで劇画だと思うわけです。おそらく漫画家はこういうとき、大きなコマを使うでしょう。いっそ、この場面は、1ページに1コマでいいかもしれません。おそらくマリアは、「先生!!」と言ってイエスに飛びついたでしょう。そのつぎのイエスのセリフは「わたしにすがりつくのはよしなさい」です。確かにマグダラのマリアはこのときイエスにすがりついていたわけです。

この目でヨハネ福音書全体を見てみますと、たとえば、十字架のシーンも相当に作者は引っ張っています。ピラトの出るシーンだけで3ページくらいあります。例えば、ピラト「見よ、この男だ」人々「十字架につけろ、十字架につけろ」というようなシーンが、あいだを置いて二度もあります(19章5節付近と、同じく19章14節付近。よく読むと違うシーンを描いたものだと分かりますが、しつこいことは確かで、つまり作者はこのシーンを引っ張っています)。それで、さらに気づかされることがあります。例えば、マルコによる福音書は、おそらくイエスという人が誰だかまったく知らない人に向けて、イエスを紹介する意味で執筆されているのに対し、このヨハネ福音書は、すでに皆さんがよくご存じのイエスの話について、それを劇的に表現することを目標として書かれたものだという点です。このヨハネ福音書は、他の福音書に載っているかなり有名なエピソードがしばしば載っていなかったりしますが、それは、著者が知らなかったというより、著者も朗読を聞く人もみんなよく知っている話だから省略されていたりするのでしょう。イエスの母の名前(マリア)がこの福音書には載っていなかったりするのも、暗黙のうちにみんな知っていたからでしょう。(ついさっき、この記事を書いていて「墓の前に転がしてあった大きな石」について、少し詳しく書こうとしましたら、そもそもその顛末はこの福音書に載っていないことにも気づきました。マルコは初めて聞く人のために書いていますので、こういう点は必ず書くわけです。)つまり、ヨハネによる福音書は、「よく知られたマンガのアニメ化」あるいは「よく知られたアニメの実写化」のようなものであろうと思われます。これもついさっき気づいた点として、ヨハネがあえて「復活」と書かないのは「さあ皆さんお待ちかね、ここからいよいよ復活シーンですよ」と言うのも野暮だからでしょう。それくらい皆さんこれはおなじみの話なのです。

というわけで、ヨハネ福音書は、劇画のような作品だと気づいた話でした!

よろしければ以下の記事もどうぞご参照くださいね。

最初に触れた、ルカ福音書が昭和的なギャグマンガの調子であることに気づいたときの記事

ヨハネ福音書がどういう作品か最初に気づいたときの記事

なお、文中の「劇画」および「園丁」の説明は、新明解国語辞典によりました。

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